「ホテルピエナ神戸」
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INTERVIEW

ホテルは舞台。スタッフは役者。
お客さまの人生の一ページというドラマ作りの
お手伝いがホテルの仕事なんです。

第九回
「ホテルピエナ神戸」総支配人 長野輝裕

2017.11.20

神戸・三ノ宮駅から徒歩7分のところに、小さいけれど、とても素敵なホテルがある。
ホテルピエナ神戸。パリの街角にあるホテルのような建物に、90室の客室と、レストラン、カフェがある。「トリップアドバイザーによるホテル朝食ランキングで、5年連続日本一」という記録を保持している、ホテル業界のなかでは有名なホテルである。SWITCH BRIGHTは、九つ目の取材先としてこの珠玉のホテルを訪れたが、訪れてびっくり、すごいのは朝食だけではなかった ―――。

5年連続朝食ランキング日本一。
これを聞いて、そのホテルの朝食を期待しない人はいないだろう。SWITCH BRIGHTの取材班も、ホテルピエナ神戸(以降、ピエナ)の朝食をいただける朝を心待ちにした。朝、「さぞかしスゴイのだろう」と朝食会場に向かった。ところが、レストランに一歩足を踏み入れ、拍子抜けしてしまった。ビュッフェ台に並ぶ料理は普通だし、品数も多いとは言えない。
「これで日本一?」、正直、最初の印象はそんな「がっかり」という思いだった。
しかし、食べてみてびっくり。どの料理も実に美味しい。手抜きが一切感じられない。一品一品に魂が込められている。大げさではなく、そのくらい美味しかった。

そして、さらに驚いたのは、サービススタッフの接客である。ビュッフェ台を前に、何を取ろうか逡巡しているお客さまを見ると、スタッフが声を掛ける。
「こちら、兵庫県産の野菜を使用したポトフはいかがですか?」そう言って、取り分けてくれる。「このコーヒーは6種類の豆を合わせたオリジナルブレンドです、チョコレートにぴったりですよ」といって、コーヒーを注いでくれる。ある子供がその日のメニューにはないのに、「いちごが食べたい」と母親に話をしているのを耳にしたスタッフが、裏に戻ったかと思うと、いちごを出してきて、人差し指を顔の前に当てて、「みんなには内緒だよ」と差し出していた。

5年連続日本一の朝食の秘密は、この「料理の質」と「接客」にあったのだ。
よく見ると、長野総支配人も朝食会場で接客をしていた。声を掛けるとこんな話をしてくれた。

「ご推測の通り、接客スタッフの評価は高いですね。ビュッフェ台の前で何を取ろうか悩まれているお客さまにスタッフは積極的に声を掛けます。多くのホテルのビュッフェでは、そんな接客をしないので、お客さまは驚かれ、そして朝食をより楽しまれます。そんなお客さまとスタッフの触れ合いが起こる朝食会場の雰囲気が、高評価につながっています。みんなで行なう空間作りこそ、ピエナが大切にしていることです。これは、私がみんなに伝えやってもらうだけではなく私も一緒にやっています」

「ありがとう」と感謝され、かつお金を払ってもらえる仕事

長野総支配人自身は、ホテルで働く楽しさや遣り甲斐は、どんな点だと考えているのだろうか。

「ホテルで働く楽しさは、やはりお客さまの反応がダイレクトに伝わってくることです。私たちにとっては何気ない、ごく当たり前の行為、例えば雨の日にご到着されたお客さまにタオルをお貸しするといったことでも、お客さまは『よく気が付くホテルですね』と、喜んでくださいます。自分がきちんとお客さまに対して想いを持って寄り添ったことが形になったときの感動は何物にも代えがたいですね」

接客業とは、「ありがとう」と感謝され、かつお金を払ってもらえる仕事なのだ。

しかし、これは経験しないと分からない。残念ながらこの「接客業の喜び」を経験しないうちに、それ以外の大変さによってホテルを辞めてしまう若者を筆者は多く見てきているが、実にもったいないことだと思う。逆に、この喜びを知った人は大げさに言えば接客業が“病みつき”になってしまう。

長野総支配人が、「この人は、接客業やホテルに向いている」と感じる人は、どんな人だろうか。

「役者になりきれる人だと思います。ホテルの建物は役を演じるステージであり、仕事のポジションに入った際に役を演じることによって、お客さまが喜んでくださり、それがまたリピートに繋がる。例えば歌手がステージの上で歌を歌いお客さまがそれを見て感動するというようなイメージです」

ピエナは、「お客さまとスタッフの人生の幸せの一ページづくり」をミッション・ステートメントとして掲げている。その具体例、つまり、お客さまとスタッフの間に生まれたエピソードがいくつもある。例えば、こんなエピソードだ。

ある晩、夕食をとりに来られたご家族がいた。年に何度か利用されるご家族だ。息子さんが就職するために遠方に行くことになり、親元を離れてしまう。その前に家族全員で集まるという目的の食事会だった。それを知ったスタッフは、自分の判断でサイン帳を買ってきた。そして、それにスタッフみんなで寄せ書きをした。「新社会人、頑張ってください」「神戸に戻って来たら、また遊びに来てくださいね」「ご両親に、しょっちゅう連絡を入れてくださいね」……、一人ひとりが心を込めてメッセージを書いていった。食事会が終わるころ、そのサイン帳を息子さんに手渡したのだった。

結果、その息子さんが神戸に戻って来るたびにホテルピエナ神戸のレストランを利用していただけるようになった。もちろんスタッフは、そんな打算ではなく、素敵な家族の想い出づくりのお手伝いをしたいだけだったのだが……。

お客さまと生涯つながれる仕事

「私たちにとっては、ほんの一瞬の出来事なのかもしれませんが、お客さまが良い思い出とともにずっと記憶に残していただける仕事なんです」

長野総支配人はそう語る。

「以前、私はウェディングプランナーをしていたのですが、担当したカップルから毎年年賀状をいただきますし、食事に来てくださる方がいます。15年以上も続いています。私としては、何かしら他のお客さまと違うことをしてあげようと、精一杯想い出づくりのお手伝いをさせていただいただけなのですが……、このような、お客さまと生涯つながる仕事って、ほかにはあまりないのではないでしょうか」

長野総支配人は、さらりと、まるで毎朝歯を磨く習慣と同じことであるかのように語る。
でも、ピエナで繰り広げられるそんな想い出づくりのドラマは、実は一般的にはすごいことだ。

トップがそんな想いを持ってサービスをすることは可能だ。けれども、そんなことを全社的に行なうことは難しい。なぜなら、そういった「して差し上げたい」というサービスは、上司や先輩から「こうしなさい」「これをやって差し上げなさい」という指示・命令でやっても意味がないのだ。なぜなら、そこには心が伴わないから。ピエナでは、どのように全社的に行なっているのだろうか。

「おっしゃる通りで、上司から『こうしなさい』と指示してしまうと、仕事がつまらなくなります。ホスピタリティが作業になってしまいますから。やりたいように行動してもらい、その結果、お客さまが喜んでくれる。その楽しさや喜びを感じる。そういうスタンスでいきたいと思っています。

逆に、そういうサービスを機械的に『仕事だからやる』というスタンスでやらせたり、やったりすると、接客業において辛さしか残らないと思います。心と心が触れ合って、人と人が繋がることが大切であるということを見失ってはいけないと考えています」

ホスピタリティとは、ノウハウでもなければ技術でもない。
ホスピタリティとは、マインドである。
もちろん、ノウハウや技術があれば提供できる感動の量や質は上がるかもしれないが、それらの根底には、「ホスピタリティ・マインド」が不可欠だ。それがなければ、ホスピタリティは偽善になる。

ピエナで、そんな接客業の本質的な大切さを改めて感じた。

Information

ホテルピエナ神戸

  • 住所:〒651-0093 兵庫県神戸市中央区二宮町4-20-5
  • 電話番号:078-241-1010
  • ウェブサイト:http://www.piena.co.jp/
  • 客室数:90室

「ホテルピエナ神戸」総支配人
長野輝裕氏 Teruhiro Nagano
〈プロフィール〉1965年生まれ。 84年兵庫県立の高等学校を卒業後 トヨタ系自動車販売ディーラーにて6年間新車販売セールス勤務、経験を生かし奮起独立、自動車販売事務所設立するが2年で廃業。 知人の紹介によりアルバイトを経て(株)西多聞に入社。 アミューズメント事業に従事後、1995年ホテル事業立ち上げと共にホテル業界に踏み入れる。 ホテル事業は未経験、スキルやノウハウも無く、自分の出来ることとして客室清掃を2年間従事、その後ウエディング事業部を立ち上げレストランウエディングを担当、ウエディングプランナーとして新郎新婦の立場に立って提案を多数、宿泊部マネージャーを経て、2005年9月よりホテルピエナ神戸支配人、2010年9月より総支配人に就任。現在に至る。

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Staff Interview

お客さまのネガティブな感情を
プラスに変える醍醐味

料飲部 
吉田めぐみさん

私は以前、製造業の会社で製造と販売の仕事をしていましたが、その仕事を通して、「私は人と接すること、相手が喜んでいる姿を見ることが好きだ」ということに気が付きました。お客さまと話すことが一番楽しい。自分自身も楽しみたい。楽しんで、お客さまに喜んでいただきたい。そう実感し、接客業への転職を決め、ホテルピエナ神戸に入社しました。

お客さまのネガティブな感情をプラスに変えられるのは、サービス業ならではではないかと思います。ホテルには色々な方々がお見えになります。ホテル側の対応に不満を持たれる方もたくさんいらっしゃいます。ホテルに対して、マイナスの感情のままお返ししていい筈はありません。私の性格は負けず嫌い。何とかして、お客さまのホテルに対する印象を変えたいという想いを持っています。それには、つねに相手側の立場に立って考える。マイナスの感情から、プラスに転換できたときは、本当にやりがいと喜びを感じます。

いまは、私以上にお客さまのことを真剣に考えている上司や同僚と共に仕事ができていることが幸せです。

Staff Interview

正しい言葉遣いを覚えることより、
その国の文化や習慣を知ることが大切です。

宿泊部 
アザード シャミムルさん

私は、学校を卒業後、4年ほどバングラディッシュ国内のホテルで勤務を経験しました。その後、日本に来ました。日本の文化や製品に興味を持っていたので。最初の二年間は日本語学校で語学を学び、その後、駿台外語&ビジネス専門学校でホテルの勉強をしました。日本のサービスレベルは非常に高く、宿泊業は厳しい世界です。お客さまのサービスに対する評価も非常に厳しい。だからこそ、自国で働くよりも、成長のチャンスは多くあると感じています。

私がホテル業界に進もうと思ったきっかけは、単純に「格好いい」と思ったからです。ユニフォームを着こなし、お客さまに接する姿に憧れました。単なる憧れで飛び込みましたが、飛び込んでみると、人と接することがとても楽しいと感じました。

ネット上の口コミで、自分の接客を自分の実名入りで書いていただけたときは、とても嬉しかったですね。でも、自分一人でもらったとは思っていません。サービスはチームワークが鍵。一人の力では限界があります。何よりも互いに助け合うことが大切だと考えます。

私のような外国籍の者が日本で働くには、先ずは文化を学ぶことが必要だと考えます。確かに、言葉遣いを覚えるのに苦労しました。でも、振り返って思うことは、「言葉よりも文化を知ることのほうが重要」だということです。文化や考え方の差はありますが、相手を知り、互いを受け入れることで分かり合える。心を込めて向き合えば、必ず理解できると思います。

Message

人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?

笑顔力

「ホテルピエナ神戸」
総支配人
長野輝裕氏 Teruhiro Nagano

Editor's Note編集後記

「1+1=2」という変えられない事ではなく、自分次第で如何様に変えられる可能性があるのが接客業。失敗して、成功体験を覚えまた失敗して…接客の面白さと根本的なことを語って頂ける取材でした。
「役者になりきれる人」がこの業界に向いていると長野支配人の言葉通り、目の前にいるお客様を喜ばせたい!と真剣に想い考えて行動する事で、機械的なサービスではない物を提供できると改めて感じました。 (原由利香

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