「蔵王国際ホテル」
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INTERVIEW

一つとして同じ商品はない。
旅館業の魅力はここにある。

第二十回
蔵王国際ホテル 専務取締役総支配人
伊藤聖

2019.05.20

東北新幹線を仙台で下車し、車で一時間内陸に入った山奥に、蔵王温泉は位置している。標高880m、数十軒の旅館やホテルが建ち並ぶ山岳リゾートである。樹氷の間を滑降できるスキー場が有名だが、温泉も極めて上質であり、東北屈指の名湯だ。温泉の開湯は、西暦110年と言われ、なんと1900年の歴史を持つ。2019年3月、スイッチブライト取材班は、春スキーでにぎわうこの蔵王を訪問、山形蔵王を代表するホテル「蔵王国際ホテル」を取材した。そこには魅力的なホテリエが待っていた。

旅館は、一つとして同じ商品はない

山形・蔵王で三つのホテル・旅館を経営する伊藤聖(いとう・すぐる)総支配人が大学時代に出会った運命の女性は、老舗ホテルの一人娘であった。将来は家業を継ぐことが決まっている。義父からも「ホテル経営者になってくれるのであれば、結婚を許す」と言われた。情報工学の勉強をしてきた伊藤さんの描いてきた未来像には、ホテル経営者というイメージはまったくなかった。少し逡巡したのち、伊藤さんは決断する。人生最大の決断だ。

「結婚しよう。自分もホテル経営者になるのなら、早い方がいいと思う。早くそちらの勉強をしようと思う」

そうして、大学卒業と同時に伊藤さんは結婚したのだった。

旅館経営者になるためのシナリオ

結婚すると、二人で東京に移り住み、伊藤さんは大原簿記学校に通った。社長である義父から、税理士の資格を取ることを命じられたからだった。そこで必死に勉強し、税理士の資格を取得、その後、会計事務所に就職した。接客業の経験がなかったために、次にフレンチレストランでウエーターの仕事をした。半年間レストランの接客を経験した後、塩原温泉の旅館でも住み込みのアルバイトを経験した。伊藤さんがフロント係に、奥さんがサービス係になった。旅館の経営に活かせる知識と経験を身につける為、これまでの勉強とはまったくの畑違いである簿記の勉強をこなし、都会のフランス料理店で料理やワインを覚え、他の旅館の接客経験を積んだのだった。

蔵王に戻ったのは、結婚してから四年後、伊藤さんが26歳の時だった。

蔵王に来て、伊藤さんは3つのホテル・旅館をジョブローテーションで経験した。それぞれの施設にフロント、サービス、業務、調理という4セクションがあって、きっちり一か月ごと12セクションを巡り、一年ですべてを経験した。これは「まずは現場を知りなさい」という義父である社長の指示だった。この経験によって、現場の仕事、現場で何が起こっているか、現場のスタッフはどんな顔ぶれで、どんな思いを持って働いているか、大方理解できた。

当時、伊藤さんの目には旅館業はどのように映っていたのだろうか。

「一組のお客さまに喜んでいただいてお帰り頂くまでに、非常に多くの手間暇とコストがかかりますので、正直、大変な商売だなあと実感しましたが、旅館の良いところも大いに感じました。旅館にはいろんな要素、例えば温泉があり、料理があり、スタッフのおもてなしがあり、建物や設備があり、景色や自然環境もある。いろんな要素が複合的にコーディネートされて一つの商品になる。よって、同じ商品は一つとしてありません。そして、それぞれの要素の中の、どれを自社の強みにして磨いていけばお客さまから選ばれるのか・・・、そんなことを考えて実行していけるのは、とても面白いですね」

付加価値を自分たちの工夫次第で高めていける面白さ

「旅館は、一つとして同じ商品はない」

確かにその通りだ。 例えば、エネルギーやモノといった商品を考えると、差別化が難しいために、結局は価格競争になってしまう。けれども旅館は、来てほしいお客さまに合わせて商品を自由にカスタマイズできる。付加価値を自分たちの工夫次第で高めていくことができる。そこが面白いと伊藤総支配人は語る。

もう一つ、別の面白さを感じているという。

「昔は旅行代理店に頼らなければお客さまに来てもらえなかったのですが、いまはインターネットで情報発信ができますし、お客さまが満足され、口コミで高評価をいただけたらさらにお客さまが増えていく、ということを自分たちでできますから、昔より売りやすくなっていると思います」

14時にお客さまがチェックインするとする。そして、翌朝10時にチェックアウトすると考えたら、お客さまは20時間、旅館を楽しまれる。その間には、スタッフと接する機会が何回もある。つまり、ほかのサービス業に比べてお客さまに喜びや感動を与えるチャンスが多いし、そこをデザインすることができる。特に、蔵王国際ホテルでは、マルチタスク制をとっているので、チェックイン手続き時に担当したお客さまを、夜にまたレストランで担当するということもよくある。これは、お客さまにとっても嬉しい運営である。そうやって、お客さまの滞在と接客をデザインしていける面白さがあるという。

結果、お帰りになる際、「〇〇さんに良くしていただいて、大満足の温泉旅行になりました」と言って頂けたり、「〇〇さんに、会いに来たよ」と再来訪されるお客さまもいる。スタッフの頑張りがダイレクトに返ってくるところがこの仕事のやりがいだ。

社員が安心して働ける環境づくり

旅館は「労働時間が長い」「賃金が低い」など悪いイメージを持つ方がいる。 しかし、付加価値を高め、生産性を高め、高い収益を確保することで社員に還元することが可能となる。

社員がやりがいを持って安心して働ける環境を整え、もっと待遇や福利厚生を充実させていきたい。その為に、蔵王温泉で運営する3施設を更に磨きをかけ、単価を高め、高収益化していきたいと伊藤総支配人は語る。

仕事の方から人を呼ぶ仕事こそ天職である

「天職」のことを英語で「コーリング(calling)」または「ヴォケーション(vocation)」と言う。どちらも原義は「呼ばれること」である。そして、フランス文学者の内田樹は、次のように述べている。

「僕たちは、自分にどんな適性や潜在能力があるかを知らない。でも、『この仕事をやってください』と頼まれることがある。あなたが頼まれた仕事があなたを呼んでいる仕事なのだ、そういうふうに考える・・・(後略)」

大学時代に出会った人との結婚で、伊藤さんは自ら希望することなくホテル経営者になった。そして、その運命や使命に抗うことなく、与えられた環境で精いっぱいできることをやっていった。最初に引いたカードに込められた運命を疑わず、自分に与えられた役割を淡々と全うする。蔵王が伊藤さんを呼んでいたのだ。あなたの天職はここにある、と。そして、それを疑わず、多くを望まず、できることを最大限、淡々とやってきた。

伊藤さんの生き方、潔く、かっこいい。
そう感じた取材だった。

Information

株式会社蔵王カンパニー

  • おおみや旅館
  • 住所:〒990-2301 山形県山形市蔵王温泉46
  • 電話番号:023-694-2112
  • 客室数:32室
  • 蔵王四季のホテル
  • 住所:〒990-2301 山形県山形市蔵王温泉1272
  • 電話番号:023-693-1211
  • 客室数:41室
  • 蔵王国際ホテル
  • 住所:〒990-2301 山形県山形市蔵王温泉933
  • 電話番号:023-694-2111
  • 客室数:59室

専務取締役総支配人
伊藤聖氏 Suguru Ito
2004年3月 新潟大学工学部 情報工学科卒業
2004年4月~2008年3月 税理士資格取得 税理士事務所、フレンチレストラン、旅館にて各々約半年勤務
2008年4月 株式会社蔵王カンパニー入社
2013年12月 株式会社蔵王カンパニー取締役就任

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Staff Interview

お客さまの希望を引き出す努力

営業課長補佐 山口 奏さん

入社して9年目になります。入社時はフロント配属でした。その後、レストランサービスや布団敷も少し経験をしました。お客さまに喜んでいただいた経験、その反対にミスをして叱られ凹んだ経験など、このホテル・旅館で得た経験が、今の自分を作ってくれています。

いまのタイトル(役職名)は営業課長補佐ですが、主に予約担当をしています。インターネットや電話からくる予約のコントロールがメインの仕事ですが、営業で旅行代理店や各種団体に出向くこともあります。

インターネットによるご予約は情報が限られていて、ほとんどのお客さまが希望を記入されないため、こちらから電話をかけてご要望を聞くようにしています。例えば、年配の方はベッドの客室を希望されることが多いので、空室がなくて仕方なく和室を選択されたお客さまに、「ベッドの部屋が用意できるようになったら、再度ご案内させていただきましょうか?」という確認電話を入れます。私だけでなく全員がお客さまの希望を引き出す努力をできるような指導を心掛けています。

正直、冬の繁忙期は毎日大忙しですが、専務や職場の方々のサポートがあり、みなで助け合いながら、蔵王に来られたお客さまの滞在がよりよくなるようにチームで頑張れるところが仕事の魅力だと思います。

Staff Interview

ホテルはチームでお客さまを笑顔にする仕事です。

サービス係長 矢嶋 良二さん

蔵王に来た理由は二つあります。

一つは、スノーボードが大好きで、働きながら滑りたいと思ったからです。 もう一つは、弱点の克服。実は、私は昔から人と話すのが苦手なんです。ですから、接客業を通してその弱点を克服したいと考えたんです。

当初は不安いっぱいの中仕事を始めましたが、「笑顔が素敵でした」とか、「最高の想い出を作ることができました」といったお礼の手紙を頂き、今ではこの仕事に大きなやりがいを感じています。

チェックインで長時間待たされてご立腹のお客さまを、私の接客によって笑顔にさせることがありますが、そんなときは、この仕事をしていて良かったと実感します。

ホテルはチームプレイです。お客さまが多く、スタッフが少ない日などは、正直とても大変なのですが、みんなで乗り切ったときは達成感と一体感を覚えます。それがホテルの仕事の素晴らしい点ですね。

レストランからは、スノーボーダーが気持ちよさそうに滑降するゲレンデが目の前に見えるし、リフト券も無料で使えるにも関わらず、実はそれほど滑ってはいないのですが、一緒に働いている仲間は良い方ばかりなので、日々楽しく過ごしています。

Message

人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?

実行力

蔵王国際ホテル
専務取締役総支配人
伊藤聖氏 Suguru Ito

Editor's Note編集後記

蔵王といえば「樹氷」やダイナミックなスキー場が有名ですが、実は、温泉の質も、ものすごくよいところでした。 取材でお世話になった蔵王国際ホテルさんの温泉も極上でした。 仕事柄いくつもの温泉に浸かっていますが、蔵王国際ホテルさんのお風呂は5本の指に入るくらいの名湯です。雰囲気も泉質も、湯加減も、最高でした。 こんな温泉に毎日つかりながら働けるのも幸せですね〜。
近藤寛和

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