そんな地獄の日々を送っていたある日、入社して数カ月のスタッフである入澤健さん(現・ホテルグリーンコア幸手マネジャー)が金子氏のところにやってきてこう進言した。
「朝食コーナーのコーヒーマシンを入れ替えたいのですが」
当時、朝食コーナーには、金子氏のセンスで選んだコーヒーマシンが置かれていた。このマシンは、スタイリッシュなものなのだが、しょっちゅう故障をしてお客さまに迷惑をかけていた。入澤さんが「業者さんとのやり取りも管理もすべて僕がやります。だから交換してください」といって持ってきたカタログを見ると、スーパーのフードコートにあるような大衆的なものだった。そのマシンを見た瞬間、金子氏は「こんなダサイのいやだ」と感じて入澤さんの進言を突っぱねた。しかし、入澤さんは諦めず、何度も懇願した。そのうち、金子氏も根負けし、渋々ながら許可したのだった。入澤さんが選んだマシンは故障もせず、ドリンクの種類も増えてお客さまにもスタッフにも好評だった。
マシンを交換した数日後、また入澤さんが金子氏のところにやってきた。そして今度はこんな提案を言ってきた。
「コーヒーマシンの脇に、蓋つきの紙コップを置きたいんです」
グリーンコアではドリンクは飲み放題にしている。当時は瀬戸物のカップしか置いてなかった。お客さまがチェックインし自分の部屋にコーヒーを持っていくときに蓋つきの紙コップがあれば便利になるという理屈だった。今度は、金子氏は、すぐに許可した。
この一連のやり取りで、金子氏は経営者として大きな気付きを得た。
「自分で考えて行動に移したことに対して、人はその結果が気になるんだということに気付いたんです。任せるとこういう動きをするんだなあと……。思考→行動→結果→思考→行動……、といったように、PDCAを回すようになる。結果、ずっと改善が続いていくんですね。これも、『任せる』が起点になるんです。これは、私にとって大きな転機となる気付きでした」