「ホテルグリーンコア」
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INTERVIEW

人から何かを頼まれる人は、
どこに行っても成功する

第五回
「ホテルグリーンコア」代表取締役社長 金子祐子

2017.07.20

埼玉県に3棟、茨城県に2棟のビジネスホテルを運営するホテルグリーンコアは、ホテル業界ではちょっとした有名ホテル企業である。ホテルグリーンコアでは、経営者や上司がスタッフに指示・命令をしなくても、自ら考え、自発的に行動する組織が出来上がっている。しかも、みなとっても楽しそうに…。お客さまとの接点である現場スタッフの接客が最大のポイントになるサービス業において、この「自発的に行動する」ということはホテル経営のキモである。そんなことで、ホテルや旅館業界人だけではなく、多くのサービス業の方から注目を集めるホテルグリーンコアだが、実はここに来るまでには数々の波乱万丈のドラマがあった。

「私の言うとおりにやっておいて」の限界

2005年、金子祐子氏は、苦境に立たされていた。
本館の隣に87室の新館を建てた瞬間から地獄が始まった。1987年に開業した45室の本館は、それまでずっと満室続きだった。ところが新館ができると稼働率は一気に下落した。金子氏の苦悩は営業成績の低下だけではなかった。スタッフが定着せず、挙句の果てに信頼していたスタッフの不正が発覚した。フランチャイジーとして契約していたインターネットカフェの経営会社が倒産した。耐震偽装を行なった姉歯事件に巻き込まれ、「お前のところも姉歯だろう」という根も葉もない噂が広がった。一生分の試練がまとめて一気に押し寄せてきたかのようだった。そして、それをたった一人で何とかしようと頑張っていた。

それまでの金子氏のマネジメントスタイルは、「私の言うとおりにやっておいて」であった。45室の本館だけなら、すべてに金子氏の目が行き届くために回っていたが、ホテルが二棟になるとそうはいかなかった。指示待ち体質に慣れっこになっていたスタッフは金子氏からの指示を待ち、言われたこと以外の仕事はしなかった。「余計なことをしてはいけない」が骨の髄まで染みわたっていたからだ。トラブル対応と、すべて自分で判断し指示命令するという日々で金子氏は過労が募り限界を迎えていた。「私はこんなに頑張っているのに、なぜ」という思いばかりが増していった。

考えて行動したことは、その結果が気になる。

そんな地獄の日々を送っていたある日、入社して数カ月のスタッフである入澤健さん(現・ホテルグリーンコア幸手マネジャー)が金子氏のところにやってきてこう進言した。
「朝食コーナーのコーヒーマシンを入れ替えたいのですが」
当時、朝食コーナーには、金子氏のセンスで選んだコーヒーマシンが置かれていた。このマシンは、スタイリッシュなものなのだが、しょっちゅう故障をしてお客さまに迷惑をかけていた。入澤さんが「業者さんとのやり取りも管理もすべて僕がやります。だから交換してください」といって持ってきたカタログを見ると、スーパーのフードコートにあるような大衆的なものだった。そのマシンを見た瞬間、金子氏は「こんなダサイのいやだ」と感じて入澤さんの進言を突っぱねた。しかし、入澤さんは諦めず、何度も懇願した。そのうち、金子氏も根負けし、渋々ながら許可したのだった。入澤さんが選んだマシンは故障もせず、ドリンクの種類も増えてお客さまにもスタッフにも好評だった。

マシンを交換した数日後、また入澤さんが金子氏のところにやってきた。そして今度はこんな提案を言ってきた。
「コーヒーマシンの脇に、蓋つきの紙コップを置きたいんです」
グリーンコアではドリンクは飲み放題にしている。当時は瀬戸物のカップしか置いてなかった。お客さまがチェックインし自分の部屋にコーヒーを持っていくときに蓋つきの紙コップがあれば便利になるという理屈だった。今度は、金子氏は、すぐに許可した。

この一連のやり取りで、金子氏は経営者として大きな気付きを得た。
「自分で考えて行動に移したことに対して、人はその結果が気になるんだということに気付いたんです。任せるとこういう動きをするんだなあと……。思考→行動→結果→思考→行動……、といったように、PDCAを回すようになる。結果、ずっと改善が続いていくんですね。これも、『任せる』が起点になるんです。これは、私にとって大きな転機となる気付きでした」

接客を極めれば、どこに行っても通用する

自発的に働くスタッフを見続けて、金子氏は次のように語る。
「経営者は、遣り甲斐を与えることはできないと思っています。なぜなら遣り甲斐を感じるポイントは、一人ひとり違うからです。経営者が用意できるのは、働きやすさ、働く環境づくりなのだと思います。遣り甲斐は一人一人違うし、それは、一緒に仕事をしている人同士で作っていくものだと思います」
遣り甲斐を感じるポイントに共通しているのは、「誰かの役に立っていると感じること」。
任せられて、自分で考えて、行動する。その結果、お客さまや仲間に喜ばれ、感謝される。
これは、マニュアル通りにやって得た結果の数倍嬉しいのだ。

最後にこのスイッチブライトの読者にメッセージをもらった。
「働くということは、人とかかわることです。接客は、相手のことを本気で考える訓練の絶好の場所だと思っています。上っ面なことしか考えないで行なう接客は、お客さまの心に決して響きません。目の前の相手のことを親身になって真剣に考えて行なう接客は相手を感動させます。それが学べ、その訓練ができる仕事だと思います。それができるようになると、その人は、一緒に働く同僚のことも一生懸命考えられるようになる。すると、どこに行っても必要とされる人間になります。20代は、人から何かを頼まれる人になって欲しい。ここじゃないところに自分の人生があるなんて考えたら、大間違い。この場で必要とされる人にならない限り、どこに行っても同じ。この場で必要とされる人になった人は、どこに行っても必要とされる人間になると思います」

Information

「ホテルグリーンコア」

  • 住所:〒340-0115 埼玉県幸手市中3丁目17-24
  • 電話番号:0480-42-7788
  • ウェブサイト:http://www.green-core.com/
  • 客室数:本館 45室、新館 87室

「ホテルグリーンコア」代表取締役社長
金子祐子氏 Yuko Kaneko
〈プロフィール〉ホテルグリーンコア(株式会社NAVI)代表取締役社長、一般社団法人マザーリングマネジメント協会 代表理事。1961年埼玉県生まれ、大妻女子大学短期大学部英文科卒。(株)東芝 第一国際事業部勤務を経て、家業である(株)NAVIに就職。3人の母親。
http://mothering-m.or.jp/
著書に、『泣ける会議 部下が活躍できる職場にするマザーリングマネジメント』(実業之日本社)がある。また、これまでの取り組み・実績は、『巡るサービス-なぜ地方の小さなビジネスホテルが高稼働繁盛ホテルになったのか』(オータパブリケイションズ刊、近藤寛和著)、『包むマネジメント ~社員が夢中になって働き出す』(ぶんか社刊、近藤寛和著)にまとめられている。

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Staff Interview

ホテルは自分の知らなかった世界に
触れることができる場所。

チーフ 
福島梨沙さん

私は専門学校を卒業後、生命保険でセールスの仕事をしていました。人と人の繋がりを大切にする仕事でしたので、とても楽しく、やりがいを感じていました。一方で、セールスは、自ら足を運び、商品を販売するため、お客さまから煙たがれることもありました。また、ノルマという壁もあり、苦しむことが次第に増えていきました。そのようなしんどさを感じていたころ、お客さまから足を運んでいただき、接客できる仕事は何かを考え、ホテルへ転職することを決めました。

ホテルはさまざまなお客さまが利用されます。お客さまとの交流のなかで、自分の知らなかった世界を垣間見ることができる場所であり、普段聞けないような話に触れることもできます。ほかの仕事では得ることができないこうした経験は、私にはとても魅力的に感じます。

私が接客で心がけていることは、ホテルに来ていただいたお客さまの様子を観察し、気持ちに寄り添い、どういったアプローチで接するかを常に考えるようにすることです。会話を交わすなかで、笑顔を見せていただけたときは、本当に嬉しく思います。
これからも、自分の居場所であるホテルグリーンコアのなかで、大好きな仲間と共に成長していきたいと考えています。

Staff Interview

お客様さまにも、一緒に働く
仲間にも居場所を提供できる仕事です。

チーフ 
井草将太さん

私は高校卒業後、証券会社で経理や営業の仕事をしていました。その後、一度転職をした際、身体を壊してしまいました。家族と相談し、地元である埼玉県に戻ることを決めました。 転職活動を進めるなかで、出合ったのがホテルグリーンコアでした。当初、ホテルで働くことに興味は持っていませんでしたが、家族の後押しもあり、入社することを決意しました。

ホテルで働く魅力は、お客さまとの関係性を築けること。私の顔や名前を覚えてくださり、「ありがとう」や、「また来るね」といった言葉を投げかけてくれたり、リピーターとして戻っていらっしゃってくれたりするときには、本当に嬉しく思います。お客さまに「居場所」を提供できているのだと実感する瞬間です。ホテルでは、お客さまとの多くの出会いがあります。一人ひとりのお客さまには、それぞれの人生があります。その人生の軌跡に関われるのは、この仕事ならではだと思います。

もし、ホテル・旅館への就職を迷われている方がいらっしゃるのであれば、「この仕事は、お客さまと居場所を共有できる仕事です」と伝えたいですね。お客さまと一緒になって語り合い、笑い合うとき、接客業の楽しさを心から感じます。

Message

人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?

引継力

「ホテルグリーンコア」
代表取締役社長
金子祐子氏 Yuko Kaneko

Editor's Note編集後記

企業経営には、利益と顧客満足と社員満足を 高めることが不可欠です。そして、多くの企業経営者は、 「顧客満足と社員満足は利益の手段」と考えています。 ところが、ホテルグリーンコアは違います。

「利益は社員の幸せの手段」なんです。 だから、グリーンコアに行くと社員の皆さんはとても幸せそうです。 お客さまも楽しそうです。いつも、職場に笑顔が溢れています。 私は、全国のホテル・旅館がグリーンコアのように笑顔と幸せの空気で溢れる職場になる未来を願っています。(近藤寛和

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