井門観光研究所
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INTERVIEW

観光業とは、平和維持産業である。

第八回
株式会社 井門観光研究所 井門隆夫

2017.10.20

Switch Brightでは、これまでホテルや旅館を取材し、魅力的な経営者やスタッフを紹介してきたが、今回は、旅館業を知り尽くした観光の専門家の井門隆夫(いかど・たかお)氏をインタビューした。JTBの添乗員を皮切りに、旅館再生の専門家を経て、現在では旅館のジャーナリストをしながら、大学で学生に対して観光や宿泊業の魅力や意義を伝えている。さて、井門先生が語る「観光・宿泊業の仕事の魅力」とはいかに?

その国を旅すると、
人はその国の悪口を言わなくなる。

井門先生は、常日頃、観光業や宿泊業で働く遣り甲斐や魅力を学生に伝えていると思いますが、どんなことを伝えているのでしょうか。まずは、ここからお聞きできればと思います。

最初に言わなければいけないことは、「観光業は、平和でないと伸びない産業」であるということです。残念ながら戦争が起きると一気に需要が縮んでしまう産業です。

学生にはいつもこう言っています。
「中国に行ったことある? 韓国を旅したことある? その国に行ったこともないのに悪口言えないよね」と。
で、一度行ってみると、みんなその国のことが好きになる。絶対悪口を言わなくなるんです。
そう言う意味で、世界中の人がもっとたくさん交流することが、世界平和への近道なんです。だから旅が必要なんです。それを支えるのが観光産業なんです。観光は、交流産業、平和を維持できる産業なんですね。ですから、人類のために最も大切な仕事であると言えるのです。

次に言うのは、「接客がストレスをセーブしてくれる」ということです。社会人として働いていて、何がストレスかって、同じ社内のいざこざです。これが一番のストレスになります。でも、観光業でも宿泊業でも、接客業であれば、お客さまと触れ合うことによって、そのストレスが緩和されます。例えば、同じ会社の中の人しか接しない事務などの仕事に携わっていると、正直ストレスが溜まる一方です。接客でいろんな人と触れ合うことで、そんなストレスを溜めることはなくなるのです。

対人関係を強化したければ、サービス業に就け

なるほど。ほかには、一般企業ではなく、ホテルや旅館で働く利点には、なにかありますか。

当たり前かもしれませんが、対人力が付きます。私の例ですが、学生時代、修学旅行などのバスの中でマイクが回されてきて「芸をやれ」とか「歌え」というレクリエーションがあると思いますが、当時の私はあれが心底嫌でした。が、旅行や旅館の仕事をするようになって変わりました。頼まれてもいないのにバスの最前列に座り、「いい加減もういいよ」と言われるまでしゃべり続けるエンターテイナーになってしまいました。

また、自分の生まれ育った土地が好きな人や地元愛がある人、または、Uターンせざるを得ない人には、ぜひとも観光業、特にホテルや旅館といった宿泊業に目を向けてもらいたいですね。宿泊業は、地域経済のハブになるんです。地元のものを買い、加工して、外から来た観光のお客さまに売る。一方、宿泊業がなくなると観光客は来なくなります。ホテルや旅館が減っている地域の多くは、人が徐々に来なくなって経済が縮み、ひいては過疎化が進んでしまうのです。

ホテルや旅館は、地域経済のハブになる

つまり、ホテルや旅館というのは、経済を活性化するためのハブです。この「経済のハブ」をマネジメントするのが宿泊業で働く人の仕事なんです。

そういった大きな意義を持つ観光業、宿泊業を目指す若者に対し、井門先生はいま面白いビジネスモデルを提案していると聞きました。

はい、そうなんです。
現在、旅館の軒数は残念ながら減り続けています。老朽化などで建物の魅力が落ちてきたということや、親族に事業継承者がいないといった理由があります。そうした、旅館を、ベンチャースピリット溢れた若者が承継するというビジネスモデルを私は普及させたいと思っています。これまでの旅館というのは、家業でやっているところがほとんどでしたので、自分の子供が承継するというのが一般的でした。これからはそうではなくて、「旅館ビジネスをやってみたい」という若者に承継するということがあってもおかしくないのです。

当然、「ここは自分の家だから手放したくない」という旅館経営者も出てくるでしょう。そうした場合には、「旅館ビジネスをやってみたい」という若者に運営だけを任せればいいのです。そうした旅館運営会社を興す若者は、複数の旅館の運営を受託していけばいいのです。

若い人の発想が宿泊業界をイノベートする

私が教えている高崎経済大学の学生が今年一人旅館ビジネスを始めました。このケースは、いわゆる第三者承継という形でしたが、経営者から「養子に入ってほしい」言われ、その依頼を飲んで養子に入りました。ほかにも旅館に修業にでている学生もいます。3年くらいで経営に携わる予定です。

宿泊業は、これまでとは違う業態を作っていかなければならないのです。若い人たちが新しい発想とパワーで、新しい宿泊業の形を表現してくれるとこの業界はもっともっと活性化するし、冒頭申し上げましたが、世界平和の貢献になっていくのです。働くというのは手段でありプロセスです。その先の大きな目標を目指してくださいと言うことを伝えていきたいですね。

素晴らしいアイデアですね。旅館業を止めたいという既存の経営者と旅館業をやってみたいという若者を繋いで、減り続ける旅館業界の未来をつくる。ぜひ、Switch Brightのスタッフも応援していけたらと思います。本日は、ありがとうございました。

Information

株式会社 井門観光研究所

  • 住所:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-21 ちよだプラットフォームスクウェア1606
  • ウェブサイト:http://ikaken.jp/

井門隆夫氏 Takao Ikado
〈プロフィール〉上智大学卒業後、(株)日本交通公社(現ジェイティービー)入社。5年間の支店勤務後、10年にわたり本社にて国内旅行政策の企画やホテル・旅館の販売促進に携わる。2001年に(株)ツーリズム・マーケティング研究所(現JTB総合研究所)主任研究員。10年間、金融機関とともに地方旅館の事業再生を手がける。2010年、井門観光研究所を設立。現在まで、宿泊業と協業し、自治体や商工会等と手を組んだ地域活性化のコーディネートを行っている。2011年より関西国際大学、2016年より高崎経済大学地域政策学部観光政策学科准教授を務め、観光経営論、観光マーケティング論などを担当する。専門は観光イノベーション。このほか、文教大学国際学部、立教大学観光学部でも非常勤講師を務め、3大学でゼミを5つ、80名を受け持つ。ゼミ活動やインターンシップを重視し、地域や宿泊業との協業を通じて、社会で役立つ能力の養成と観光産業を目指す学生の育成を目指している。学生には、大学時代に「何を教わったか」より「何ができるようになったか」を課す。

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Editor's Note編集後記

井門先生は、ときに辛辣な言葉を発する。
旅館・ホテル業界の経営者や従事者に対し、苦言を呈する。
でも、そのメッセージには、この業界に対する深い愛情が裏に隠れているのだ。
愛情を持って業界を支援しているし、愛情を持って業界を担う人事育成を続けている。

「観光促進こそ、平和への道」。
学生時代、安くて長いバックパッカー旅ばかりしていた私も、その通りだと思う。当時は、日本人が海外に行くほうが多かったが、今や日本が世界の旅行者から注目され、魅力あるデスティネーション(旅先)になっている。そんな魅力ある日本の観光産業を支える若者が、このSWITCH BRIGHTを見て一人でも多く増えることを願っている。 (近藤寛和

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