Editor's Note編集後記
ホテリエとしての「未来」と「可能性」…
田中社長やスタッフと言葉を交わす中で心に浮かんだワードです。
誰もが自分の夢や想いを自分自身の言葉で語ることができる職場。将来を見据えて学び、そして可能性を広げられる環境。自由と節度を持って、自ら考え能動的に動く。
働く喜び、ホテリエとしての歓びを体現できる場所だと感じました。
(平賀健司)
INTERVIEW
ホテリエを目指そう ~ホテルで働く3つの魅力
2017.09.21
ホテリエとは、プロフェッショナルホテルビジネスパーソンを指す言葉。ソムリエがワインなどの飲料のスペシャリストを指すように、ホテリエはホテルビジネスのスペシャリストを意味する言葉である。今回訪問したKPG HOTEL&RESORTの取締役社長 兼 COOの田中正男氏は、優れたホテリエの一人である。ヘッドハントされて総支配人として就任した同社のホテルをたった2年間でV字回復させ、好業績ホテルに変身させた。そしてその後社長に昇格してしまった。今回のSwitch Brightは、田中氏にホテルで働く魅力、特にマネジメントレベルで働く魅力を語っていただいた。これを読んだらきっとあなたもグローバルホテリエに憧れるに違いない。
ホテルスタッフ一人ひとりの魅力が、
ホテルのビジネス力に直結する
少し堅苦しい話から始めて恐縮だが、ホテルの魅力は3つの要素から成り立っている。 一つはハードウェア。建物やインテリアの魅力である。二つ目は、ソフトウェア。ホテルの運営ノウハウやコンピュータシステムといったお客さまをもてなす仕組みである。そして三つ目がヒューマンウェア。つまり、働く人である。
“ホテル”とひとくくりに言っても、シティホテルやリゾートホテル、ビジネスホテルなど多様にあり、それぞれお客さまがホテルを利用される目的は違うのだが、田中氏は、「ホテルは90パーセント、人の力でできている」と言い切る。これはどういう意味だろうか。
「ホテルで働く一人ひとりのスタッフの個性や接客技術でホテルは成り立っています。接客するスタッフの対応によって、お客さまは喜び、感動されます。そして、満足していただき、『また帰ってきたい』と思っていただくのです。もちろん、現場スタッフだけの力で成り立っているわけはなく、現場オペレーションを支えるバックオフィスのスタッフの力も大きいです。いずれにせよ、スタッフ一人ひとりが自分を磨き、人間力を高めていくことが、お客さまに提供できる価値の大きさに比例していく仕事なのです」
ホテルの商品力とは、ホテルパーソンの魅力とイコールなのだ。ホテルの魅力が増し、ひいてはビジネス力が向上する遣り甲斐溢れる仕事なのである。
世界があなたを待っている
~鞄一つで世界を渡り歩ける仕事
ホテルという仕事ほど、やる気になれば世界中どこに行っても働ける仕事はない。ホテルマネジメントの手法は、世界中どこに行ってもほぼ同じである。そして公用語は英語。だから、ホテルマネジメントのノウハウと、ビジネスで使える英語力さえあれば世界中のホテルで働ける。つまり、田中氏がそうであるように、鞄一つで世界を渡り歩けるのだ。就職活動を控えている学生と会うたびに田中氏は、「将来グローバルな世界で働きたいと考える人にとっては、ホテリエという仕事は、とても魅力的です」と伝えているという。
ホテリエが「鞄一つで世界を渡り歩ける仕事」であることは田中氏が実証している。国内外のホテルで働き、いまではホテル企業の社長を務めている。いつからそこを目指していたのだろうか。もしくは、目指してなんて来ず、結果的に社長になったのだろうか。そこから質問してみた。
「成り行きです。まさか、私が社長になるなんて思ってもいませんでした。私は、自分から手を挙げて転職をしたことはありません。何度もホテルを移ってきましたが、すべてお誘いを受けて動いています。私は高校二年生のときからホテルマンになりたいと思っていました。きっかけは単純です。単にホテルのユニフォームがかっこいいと感じたから。もう一つ、小学生のころからクラスのムードメーカー的存在でした。先生から叱られた後、クラスメイト全員がしょんぼりして下を向きがちなときになると、ひょうきんに振る舞ったり、アホなことを言ったりして明るくするのが得意だったんです。大学時には三年間、横浜のホテルニューグランドでアルバイトをしました。ハウスキーピング、ルームサービス、ベルボーイなどを経験しました。就職は東京ヒルトンホテル(現・ヒルトン東京)でした」
田中氏は、ヒルトンホテルを皮切りに、日本だけではなく、台湾やロシア、フィジーといった海外でも働いている。ホテル不動産ファンド会社でも働いている。そして2005年に、フィジーの離島「マナアイランド」というところで総支配人に就任している。海外に出たことによって英語力を身に着けたこと、不動産ファンド会社で計数管理を叩き込まれたこと、この二つが田中社長のキャリアをぐんと押し上げる結果となった。
ホテルの運営責任者としての総支配人をキャリアのゴールにしているホテルマンは多い。ホテル総支配人という役職は、世間的には「街の名士」と見られ、社会的地位も高いからだ。しかし、田中氏はその上のタイトルを得ている。
“誰かのために”で夢中になれる仕事
KPG HOTEL&RESORTが運営するカフーリゾートフチャクコンド・ホテルは、毎年、難病を抱える子供を持つ家族に沖縄旅行をプレゼントしている。そういうとき、スタッフは社長である田中氏や上司からの指示がなくても、一生懸命動くという。
「私は、なんにも指示しなくても段取りを考え、ウェルカムパーティの飾り付けをし、チームで動いて滞在をサポートするんです。もうかれこれ4回くらいやっていますが、回を重ねるごとに上手くなっていますし、多くの人たちを巻き込んでいます。盲導犬13頭と共に宿泊する目の不自由な方々の宿泊企画のときも、盲導犬の接し方の研修を自分たちで行なったりして臨んでいました。そんな姿を見ると『みんな、成長しているんだなあ』と実感して、心が震えるほど嬉しくなりますね」
ホテルパーソンは、ときに仕事を忘れて一生懸命になることがある。「誰かのために」、チーム一丸となるとき、ホテルで働く人たちは“気持ち”で仕事をするようになる。給料とか、シフトとか、そんなことは一切忘れて夢中で働く。筆者は、ここにホテルで働く最も大きな魅力を感じる。お金では買えないワクワク感があるのだ。
カフーリゾートフチャクコンド・ホテルの滞在を終え、難病を抱える子供たちがチェックアウトし、ホテルを出発するとき、関わった大勢のスタッフたちが子供たちをお見送りした。主催者たちがホテルスタッフに握手を求めた。ホテルスタッフが差し出す右手を両手で包み込み、大きくシェイクしている。ホテルを挙げての歓待に感動していたのだ。目には涙を浮かべて感謝の気持ちを精一杯伝えていた。ホテルスタッフたちの顔も達成感で溢れている。その光景を田中氏は遠くから眺めていた。目は嬉し涙でいっぱいだった。
Information
KPG HOTEL&RESORT 沖縄 Cluster Office
ホテル:
OKINAWA GRAND MER RESORT(300室)
〒904-2174 沖縄県沖縄市与儀2-8-1
Kafuu Resort Fuchaku CONDO・HOTEL(333室)
〒904-0413 沖縄県国頭郡恩納村冨着志利福地原246-1
「KPG HOTEL&RESORT」取締役社長 兼 COO
田中正男氏 Masao Tanaka
〈プロフィール〉1961年大阪生まれ。84年東京ヒルトン入社、88年ヒルトンインターナショナル ナショナルセールスオフィス係長、89年リージェントホテル・シンガポール日本企業担当セールスマネージャー、91年リージェントホテル・タイペイ営業部支配人、94年フォーシーズンズ・リージェント日本支社営業支配人、97年マナアイランドリゾート・フィジー副総支配人、02年京都ロイヤルホテルマーケティング部長、03年ロイヤルパーク汐留タワー マーケティング支配人、04年ホテルヒュンダイ ウラジオストク総支配人代行、05年フレッシュフィールドリゾート台中・総支配人、05年マナアイランドリゾート&スパ執行役員総支配人、13年株式会社KPG Hotel & Resort統括総支配人、15年同社取締役社長 兼 COO 現在に至る
Staff Interview
私の夢は、沖縄観光を支える人財を育てること。
広報担当
町田彩美さん
私はハワイ大学を卒業後、嘉手納基地で通訳の仕事をしていました。その後、運よく「ミス沖縄」に選ばれ、その活動のなかでホテルに滞在する機会を多く得たことが、ホテル業を選択するきっかけになりました。それに以前から、「沖縄観光の役に立てるような仕事がしたい」と考えてきましたので、その思いも実現できる仕事だということも大きいです。
学びたい、成長したいという気持ちがある人には、ホテルの仕事は一番です。さまざまなお客さまと出会え、会話ができ、その会話のなかから、いろんなお話を引き出すことにより、自分の勉強になるからです。それに、お客さまにも沖縄の魅力をたくさん伝えることができます。ワクワクして、笑顔で訪れるお客さまが、お帰りになる際には、訪れた時の倍の笑顔でホテルを後にしてほしい。私はいつもそんな思いを持って仕事に取り組んでいます。
私の夢は、この大好きな沖縄を代表するような人間となって、沖縄の観光を支える人財を育てることです。沖縄で生まれ育った人に、この地に留まってほしい。いつかは、ホテルや観光を学べる学校を沖縄に作ってみたいと思っています。
Staff Interview
ホテルで働く魅力は、自分に会いに
来てくれるお客さまがいること
フロントデスク
三上大さん
大学在学時にファストフード店でアルバイトをしていた際、私は“ホスピタリティ”という言葉に出合いました。自分のホスピタリティを磨くことでお客さまにより大きな価値や感動を提供することができることを知ったんです。それで接客を極めたいと思いました。そして、すぐに通っていた大学を辞めホテル学校に入学しました。転校のことを両親に伝える言い方やタイミングには正直非常に悩みましたが、思いのほか快く背中を押していただきました。ホテル学校に入学後は、昼間はアルバイトとしてホテルで働き、夜は学校で学ぶという生活をしました。
この仕事の魅力は、自分に会いに来てくれるお客さまがいること。ホテルのリピーターであるお客さまとコミュニケーションを重ねるうちに、自分のお客さまになってくれている。例え転職しても、私に会うことを目的として、移ったホテルを訪れてくれる。そういった経験は、ほかの職業では考えられないことだと思います。楽しそうにされているお客さまと接していると、元気をもらえる気がします。
私は45歳までに総支配人になることを目指しています。総支配人は、一つのホテルの運営トップです。リーダーです。いまは、45歳から逆算して、伝える力やコミュニケーション力など、必要なマネジメント能力を身に着ける努力をしています。さまざまな経験を通して、優れたホテル総支配人になれるよう日々楽しく頑張っています。
Message
人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?
人間力
「KPG HOTEL&RESORT」
取締役社長 兼 COO
田中正男氏 Masao Tanaka
Editor's Note編集後記
ホテリエとしての「未来」と「可能性」…
田中社長やスタッフと言葉を交わす中で心に浮かんだワードです。
誰もが自分の夢や想いを自分自身の言葉で語ることができる職場。将来を見据えて学び、そして可能性を広げられる環境。自由と節度を持って、自ら考え能動的に動く。
働く喜び、ホテリエとしての歓びを体現できる場所だと感じました。
(平賀健司)