Editor's Note編集後記
真の観光立国となるには、産官学連携は不可欠です。特に国としての役割、本気度が重要だと考えます。 今回の取材を通じて感じたのは、その本気度。成長戦略の柱としての「観光」という捉え方。 観光を通じ国が発展し、更には国際交流の促進、国際平和にも繋がる。 今後、ひとりでも多くの若者が観光業を目指し、地域創成と国際平和に貢献していくことを期待したいと思います。 (平賀健司)
INTERVIEW
観光業・宿泊業は、
これからの日本を背負って立つ産業。
国が本気で応援している大切な成長分野です。
2018.01.22
みなさんは、いま国が「観光立国」に向けて精力的に活動をしていることをご存じだろうか。2003年にビジット・ジャパン・キャンペーンを始め、2008年には、「観光庁」を発足。以来、魅力的な観光地づくりの促進、訪日客増加の促進、観光人材育成などなど観光促進に関する無数の施策を精力的に行なっている。観光庁が使える予算も毎年増加し続けている。その甲斐あってか、2003年にはたった500万人ほどだった訪日客(インバウンド)数は、2017年は3000万人近くに達する見込みである。
さまざまな産業がある中で、観光産業というのは、国が一生懸命応援してくれている産業なのだ。そして、観光産業のなかで、最も重要といえるのが、旅のベースとなる「宿泊業」なのだ。
今回のスイッチ・ブライトは、観光庁の水嶋智次長をインタビュー、ホテル・旅館業を担う若手人材に向けて、メッセージをもらった。
国は、ここ10年の間、観光業に力を注いでいられます。なぜ、いま観光業なのか、そして観光業の将来性をどう考えているのか、まずはここから教えてください。
まず、国の政策として、観光分野は成長戦略の柱です。日本はいま、人口減少、少子高齢化という流れに入っています。また、地方においては人口の偏在が見られています。そうした社会のなかで、国としては「観光を通じた交流人口の拡大」に大きな成長の可能性を見出しているのです。
20世紀においては、公共事業・工場を誘致することが、地域経済を支えるひとつの提案でした。ところが、現在は製造業の諸外国との国際競争がますます厳しくなっています。そうした製造業の厳しい現状を踏まえ、今後の伸びしろの大きな観光業に注目しているのです。観光を通じて、交流人口の拡大や各地方で行なわれる経済活動を活性化することで、地域社会を盛り上げて行くことを目指しています。
また、昨今は、国際的な情勢が人々の不安をあおるようになってきました。観光業や宿泊業は平和に貢献する産業です。観光によって国際交流を促進させることは、世界平和につながります。国境を越えて、人と人とが繋がり、文化についての相互理解を深めていくことが、その国が国際社会の中で安定的な地位を維持する上で非常に重要になってくる時代なのです。
観光は日本を牽引する第三の輸出産業
20世紀は軍事力や経済力などのハードパワーの時代でしたが、21世紀型の外交は文化の発信力や国際親善などのソフトパワーもしくはスマートパワーが国際社会におけるその国の地位を高めます。ですので、観光や宿泊業の現場で、外国人の方と触れ合う接客スタッフのみなさんの印象が、これからはますます重要になってくるのです。
ここ数年、訪日客数が非常に伸びています。国は、2020年に4000万人という目標を掲げています。2006年は730万人だったのが2016年は2400万人を突破し、10年間で3倍になりました。国内における旅行の消費額の数字は25.8兆円になっていて、訪日客にかんしては、2016年に3.7兆円になっています。
これはものすごい勢いの伸び率なのです。日本の代表的な輸出産業に「鉄鋼」がありますが、その輸出額は、2.8兆円です。つまり、訪日外国人が日本で使ってくれる金額は、すでに鉄鋼産業の輸出額の1.3倍の金額になっているのです。また、日本はハイテク産業の国という印象がありますが、電子部品の輸出よりも観光産業の収入のほうが多くなっています。観光業はいまや、自動車、そして化学に続く「3番目の輸出産業」になっているのです。
なるほど、そうするとますます働き手が必要になってきますね。若い人たちに、もっともっと目を向けてもらいたいですね。では、観光産業を目指してみたいという若い人たちに、今このようなことをやっておけばよいということはありますか。
一番は旅行体験です。もちろん地理や歴史、文化といったアカデミックな知識も必要ですし、語学も必要でしょう。でも、それらは後付けできます。それよりも、海外や国内を問わず旅行をたくさんしてほしい。旅先における体験を積んで、旅行や観光の魅力を感じ、旅行者の心情を理解することです。旅先に行った際にどのようなことをしてくれて嬉しかったか、どのようなことで困ったかなどの記憶は、接客の仕事をする上でとても役立つものだと思います。自分自身の旅行経験が、観光ビジネスに携わる際に、大きな価値となるのです。
社員を大切にする企業が競争力を高めている
観光業は良いイメージもありますが、一方で、「きつい」、「ブラック企業が多いのではないか」、「人が休んでいるときに休めない」といったネガティブなイメージもあると思います。
ただ強調してほしいのは、「観光・宿泊産業は、今劇的に変化を迎えている」ということです。
従来の日本人団体旅行客ばかりの時代から、訪日外国人客が押し寄せている国際環境にさらされる産業になっています。その結果、産業の中身が大きく変わっていき、従業員を大切にする企業が世界の中の宿泊産業の中で競争力を持っている事実を考えると、日本の宿泊業も変わっていかなければいけないと考えます。宿泊業全体が21世紀型に大きく変わっていく時代になり、その中でも働く人に関心を持たない企業は生き残っていけない時代になってきているのです。
友達が休んでいるときになかなか休めないと思っている方がいるかと思いますが、これはどの産業でも同じになりつつあります。いまは、働き方改革と言われていて、女性も子供を育てながら働ける環境、高齢者も戦力として働いてもらう時代です。そうした流れに合わせた勤務形態や勤務時間を整備し、多様化しているのです。社会全体がそのように変わってかなければいけない。ある意味宿泊産業が休みの取り方など時代を先取りしていると言ってもいいかもしれません。
水嶋次長が考える旅館の存在意義は、どんな点でしょうか。
旅館は日本独特の宿泊業態です。日本人の生活様式、ライフスタイルを外国人の方に体験していただくという意味で、非常に貴重な存在です。ホテルなどの近代的な宿泊施設は、世界各国で標準化されていて、どこの国に行っても同じような空間で同じようなサービスが受けられるというメリットがありますが、海外から来られる外国人は、日本ならではの体験をしたいというニーズがあります。自分の国とは違う日本人が普段行なっている生活をトータルで提供できるのが旅館なのです。もちろん、外国の方のニーズにマッチしていくためには、滞在の在り方を拘束したり、お仕着せの料理を出したりといった今のやり方を修正しなければなりませんが、旅館にはあらゆる日本文化が凝縮されていますので、外国人には非常に魅力的な宿泊施設であることは間違いありません。日本の観光コンテンツの大きな魅力として、旅館が活躍してもらわなければ、これからの日本の観光産業は困ります。ぜひ、既存の旅館業界の皆さまは頑張ってもらいたいですし、若者にも目を向けてもらいたいと思っています。
Information
国土交通省観光庁
水嶋智氏 Satoru Mizushima
〈プロフィール〉1963年生まれ。
1986年3月東京大学法学部卒業。
国家公務員採用I種試験(法律)
1986年4月運輸省 入省
1992年10月運輸省航空局監理部総務課補佐官
1995年1月運輸省海上交通局外航課補佐官
1996年9月運輸省航空局飛行場部新東京国際空港課整備推進調整官
2000年5月外務省経済協力開発機構日本政府代表部一等書記官
2003年1月外務省経済協力開発機構日本政府代表部参事官
2003年6月国土交通省大臣官房総務課企画官(併:海事局)
2004年4月国土交通省大臣官房会計課企画官
2006年4月国土交通省航空局管理部総務課ハイジャック・テロ防止対策室長
2006年7月国土交通省総合政策局観光経済課観光交通政策推進室長
2007年7月国土交通省総合政策局観光資源課長
2008年10月国土交通省観光庁観光地域復興部観光資源課長
2009年7月国土交通省大臣官房付(併:内閣官房内閣参事官(内閣総務官室))
2011年10月国土交通省総合政策局公共交通政策部交通計画課長
2013年7月国土交通省観光庁総務課長
2014年7月国土交通省大臣官房総務課長
2015年7月国土交通省大臣官房審議官(併:鉄道局)
2016年6月国土交通省鉄道局次長
2017年7月国土交通省観光庁次長
(併:内閣官房内閣審議官内閣官房副長官補付)
(併:内閣官房観光戦略実行推進室次長)
(併:内閣官房歴史的資源を圧用した観光まちづくり連携推進室審議官)
取材協力:
財団法人宿泊施設活性化機構
伊藤泰斗氏
Editor's Note編集後記
真の観光立国となるには、産官学連携は不可欠です。特に国としての役割、本気度が重要だと考えます。 今回の取材を通じて感じたのは、その本気度。成長戦略の柱としての「観光」という捉え方。 観光を通じ国が発展し、更には国際交流の促進、国際平和にも繋がる。 今後、ひとりでも多くの若者が観光業を目指し、地域創成と国際平和に貢献していくことを期待したいと思います。 (平賀健司)