「知床グランドホテル北こぶし」
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INTERVIEW

世界に誇る北のネイチャーリゾート
世界自然遺産を遊び尽くす拠点としてのホテル

第十二回
「知床グランドホテル北こぶし」専務取締役 桑島敏彦

2018.02.21

羽田空港から女満別空港まで2時間、そこからレンタカーで北海道の地平線に囲まれた大地を北東に進むと世界自然遺産として知られる知床半島にたどり着く。まだ晩秋だというのに微かに雪が舞っている。白い波しぶきを絶やさない荒涼としたオホーツク海は、寂しさを感じさせなくもない。そんな知床の中心に素晴らしいリゾートホテルがあると聞き、2017年10月、SWITCH BRIGHT取材班は遠征した。「知床グランドホテル北こぶし」。ここは、まさに自然がそのままの形で残る知床半島に、明るさと温かさを放つ珠玉のリゾートホテルだった。

知床の自然を体感できるメディアとしてのホテル

誤解を恐れずにいうならば、ナショナルチェーンや外資系ホテルチェーンのリゾートホテルを除いたローカルのリゾートホテルの多くは、訪問すると少しがっかりすることがある。どうにもあか抜けないデザインだったり、ロビーなどのパブリックスペースにもかかわらず段ボール箱が放置されていたり、破けたポスターが貼ってあったり・・・、そんな感じで非日常のリゾートに来たワクワク感がそがれてしまったりすることが多いのだ。

ところが、今回訪れた「知床グランドホテル北こぶし」は、まったく違っていた。地域に根付いたローカルホテルなのだが、外資系高級リゾートホテルにも引けを取らない上質な空間で、元気なスタッフが接客していた。生き生きと楽しそうに、お客さまに知床観光のポイントをお伝えしていた。

取材資料によると、同ホテルは2010年頃から改装を積極的に繰り返しているという。今年の4月からは、コンセプトを「知床の自然を体感できるメディアとして上質な滞在を提供する」とし、ホテル名を「北こぶし知床 ホテル&リゾート」に変更するという。さらに、投資先は建物だけではないようだ。社員にとっても魅力的な場所にするために年間休暇を105日、初任給は北海道最上位クラスに上げるとのこと。雑誌「北海道じゃらん」では、北海道の100部屋以上の旅館の中の口コミで一番を獲得しているという。道理で活気に溢れた空気感が伝わってくるはずである。

そうした変革を推進しているのが同社の桑島敏彦専務取締役だ。
まずは桑島専務に、このホテルの歴史から伺った。

ヒグマやクジラ、シャチが暮らす
「北のネイチャーリゾート」

「この宿の歴史は57年です。1960年に私の祖父が創業し、つい先日まで父が社長でしたが、2017年7月より私の兄に世代交代しました。創業者である祖父が知床の温泉旅館の礎を築き、先代社長(現会長)の父が温泉地としてこの知床の存在感、認知度を大きくしてきたおかげでお客さまがたくさん来てくれています。2005年に世界自然遺産に登録されたのもその要因のひとつですね。

三代目であるわれわれ兄弟は、事業継承する際に、これからの10年で何をしたいのかをじっくり考えました。そして近年、温泉目的よりもヒグマやクジラ、シャチといった、動物園や水族館に行かないと見ることのできない野生の動物が生きる自然を見たいというお客さまが増えていることに注目しました。雄大な自然が広がる知床五湖のトレッキングやアニマルウォッチング、ホエールウォッチングができるクルーズなどを目的としたお客さまの多くは、知床に連泊しているのです。そこで、以前は温泉地らしく和風旅館だったのですが、私たちの世代は、「北のネイチャーリゾート」を目指すことにしました。

現に、お客さまから聞かれる質問は、ホテル内のことよりも、知床で何が体験できるかといったアクティビティやオプショナルツアーのことのほうが多いくらいです。このホテルのホテルパーソンは、サービスパーソン兼、ネイチャーガイドもできるようにしていきたいです。

休みの日にはクマを探しに森に行く

「ネイチャーリゾート」というフレーズは、アウトドア派にはとても魅力的に響く。やはり、スタッフもそんな自然派人間が集っているのだろうか。

はい、確かにそうです。都会的なものが好きな方はこの場所には不向きでしょうが、自然大好きという人にはたまらない職場のようです。または、自然が好きというよりは、「ネイチャー系」と言いましょうか、都会の中では生きていけない人達、都会出身でも人ごみや満員電車が苦手という人たちが知床には自然と集まってきています。しかも、そのような人達は私共のホテルでも大きな戦力になっていたり、知床のネイチャーガイドとして働いていたりと、この地域の魅力を伝える大切な人材になっています。弊社で働くスタッフには、休みの日に買い物に行くのではなく、自然の中にクマを探しに行くくらい自然が好きな人もいます。

そんな自然派に魅力の職場になっている「知床グランドホテル北こぶし」だが、地域の若者にとっても魅力的に映っているという。

スタッフインタビューに答えてくれた高田詩織さんも、このホテルが地域のために活動し、天災等があった際は公器となって社会貢献する姿勢に惹かれたという。

冬期、このエリアは吹雪などで国道が通行止めになり、陸の孤島になることがあります。その際には旅館組合としても割安な料金を設定し、各ホテルで同じ宿泊料に統一しています。当地では施設、経済規模も大きなホテルですので、やはり地域貢献をしないといけないと考えています。例えば知床の自然保護活動を進める「知床財団」という組織がありますが、このホテルでお客さまがお土産(特定の商品)を買うとその金額の数パーセントを知床財団へ寄付する仕組みがあります。また、兄である社長が旅館組合長や観光協会副会長をやっているので観光のプロモーションや漁業組合の方と繋がりを持って連携することも意識的に行なっています。

「経営」の"経"と"営"を兄弟で分担

ビジネスと地域貢献を両立させている実に優れた、真っ当な経営者である。桑島専務はどのような経歴をお持ちなのだろうか。

中学まで知床で育ち、その後札幌の大学に行きました。その在学中に一年間オーストラリアのブリスベンに語学留学、帰国後は東京の旅行会社(以前はJALトラベル、現在は統合してJALパック)に約2年間勤めました。現在36歳です。社長は一つ年上で現在38歳、大学卒業後に山代温泉に修行に行きました。いずれ一緒に経営するだろうから、兄が旅館を学び、私が旅行ビジネスを学んだというわけです。会社での役割分担は、基本的に財務系と総務系を兄が、マーケティングやセールスを私が担当しています。「経営」の"経"が兄で"営"を私が担当している感じです。総支配人はまた別の方がいて、その方がグループの宿を見ていてそれぞれの宿に支配人がいます。

最後に、このホテルで働く魅力を語っていただいた。

大企業では難しいと思いますが、当社では数年で管理職に就くこともできます。さらにやる気と能力がある方は10年で支配人になれる可能性も大きいです。自然が好きなネイチャー系の人、そして、人に喜んでもらうことが好きな方、話をしていて明るい方は、当ホテルで活躍できると思います。

Information

KITAKOBUSHI SHIRETOKO Hotel & Resort
(知床グランドホテル北こぶし)

  • 住所:〒099-4355 北海道斜里郡斜里町ウトロ東172
  • 電話番号:0152-24-2021
  • ウェブサイト:http://www.shiretoko.co.jp
  • 客室数:181室

知床北こぶしグループ 専務取締役
桑島 敏彦氏 Toshihiko Kuwajima
〈プロフィール〉1981年生まれ。知床半島の北側、北海道斜里町で育つ。大学卒業後、JALトラベル(現在のJALパック)に就職、手配業務を中心に旅行業を学ぶ。2005年9月に帰郷し(株)知床グランドホテルに就職。予約業務・エージェント営業を主に担当する。父繁行氏(現会長)、兄の大介氏(現社長)とともに2008年には知床夕陽のあたる家(23室)を合併、2014年には知床プリンスホテル風なみ季(176室)がグループに加わり、知床ウトロ地域で3館を運営する企業となり、2017年7月に専務取締役に就任。現在に至る。

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Staff Interview

失敗はしても、誠心誠意対応することで気持ちは伝わる

料飲部門 古谷 明彦さん

私が宿泊業界を選んだのには、大学在学中に経験したコンビニエンスストアでのアルバイトが大きく影響しています。お客さまからの「ありがとう」の声を聞きたい。そう考えてこの業界に進む決意をしました。

当初は、「自分にこの仕事が勤まるのか、長く仕事を続けることができるのか」という不安があったのは事実です。でも「この仕事が向いてなければ、やり直せばいい」、「やらないで後悔するよりは、挑戦してから後悔をしたい」そう思って飛び込みました。

入社して間もないころ、接客中にお客さまにドリンクをこぼしてしまったことがありました。いわゆる「ぶっかけ」です。もちろんその場で懸命に謝罪し、幸いなことに3年後に同じお客さまが再訪して下さいました。私はそのお客さまのお顔を覚えていましたが、驚いたことにお客さま自身も私のことを覚えていて下さいました。そのお客さまから、「頑張れ」と温かいお言葉を頂くこともでき、本当に嬉しかったですね。失敗はしても、誠心誠意対応することで気持ちは伝わることを学びました。また、ミスをしてしまったことで、繋がる縁もあると感じました。

そもそも、私は丁寧な言葉づかいにも自信があったわけでもありません。拙くとも想いがあれば伝わりますので、積極的にコミュニケーションを取ることが大切だと考えています。 それが、外国からのお客さまであろうと、高額利用のお客さまであってもです。なぜなら、ホテルにとって大事なお客さまであることに変わりはありませんから。

ホテルで働くやりがいは、やはりお客さまとの「一期一会」ですね。それぞれのお客さまが、「それぞれの旅」を楽しみにしていらっしゃいます。個々のお客さますべてに満足いただけるようにと願い、やりがいを感じながら毎日を過ごしています。
接客が楽しい、誰かと話すことが好きだと思う方は、ぜひ宿泊業界に飛び込んでみるべきだと思います。やらないで後悔するよりも、挑戦して後悔を。だからこそ、一度チャレンジしていただきたいですね。

今は、このホテルの中で、大好きな仲間と共に成長していきたい、そして、地域の方々と連携し、力を合わせながら、知床を盛り上げていければと考えています。

Staff Interview

毎日が違う。だからこそ楽しいし、続けられる仕事です。

フロント 高田 詩織さん

私が宿泊業を選んだきっかけは、大学時代にイベントを企画するサークルに所属していたことが大きく影響していると思います。多くの人と関わって、人と接することが自分は大好きなんだと感じ、「人に関わる仕事、誰かとコミュニケーションを取りながら何かをしていくことがしたい」と考えるようになりました。そして、生まれ育った大好きな地元で、地域一番のホテルで働きたいと思うようになっていきました。

私の勤務する「知床グランドホテル北こぶし」は、災害などが起こった際には、積極的に被災者や困った方々を受け入れるなど、公的な役割も担っています。こういった企業姿勢に惚れ込み入社を決意しました。

私は生来の人見知りする性格でもあり、当初は周りの人と上手くやれるのか、お客さまの対応がきちんとできるのかと、不安要素を多く抱えていました。でも、ホテルの方々は人の気持ちを察することが得意な方が多く、私自身の本質もよく理解してくれましたので、次第に不安は打ち消されていきました。

ホテルの仕事の楽しみは、やはりお客さまとのコミュニケーションですね。「ありがとう」と言ってもらえたときは、本当に嬉しく感じます。お客さまから感謝の気持ちや喜ぶ姿を見れる仕事ってそんなに多くはないと思います。

今では勤務も二年目となり、事務処理など、バックオフィスでの業務も自然と増えてきたことで、これまでの業務を客観的に考えることができるようになりました。今後は大好きなフロント業務だけでなく、様々な部門の仕事にも積極的にチャレンジしていきたいと思います。

もし、宿泊業界への挑戦を迷っている方がいるのであれば、まずは飛び込んで欲しいですね。お客さまの対応は難しい部分もあるかもしれませんが、必要以上に身構えることはありません。自然体で臨めば、案外上手くいくものです。

仕事の一つ一つが積み重なって、ホテル全体の業務が完成する。綿密な段取りをしながら、一日一日をやり切ることが仕事の楽しみでもあります。毎日が違う。だからこそ楽しいし、続けられる仕事なんです。

Message

人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?

冒険力

「知床グランドホテル北こぶし」
専務取締役
桑島敏彦氏 Toshihiko Kuwajima

Editor's Note編集後記

40代以上の世代にとって、知床といえば「知床旅情」です。自動反応的にこのメロディが頭の中に流れます。
知床旅情(YouTube)
取材班は、移動中の車のなかでも、夜の客室でのミーティング中も、ずっとこの「知床旅情」を流し、知床の魅力を味わっていました。
この曲が流行った昔の知床は、「北の最果ての地」といったイメージがあるのでしょうが、いまは世界自然遺産、ネイチャーリゾートの拠点としての「知床グランド北こぶし」のおかげで、随分と明るく魅力的なデスティネーションになっています。次は夏に訪れたい、そんな想いを抱いた一泊二日の取材旅行でした。

追伸 「知床グランド北こぶし」は、ビュッフェがすごかった。量も種類も質も、演出も素晴らしかったです。お勧めです!
近藤寛和

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