「株式会社強羅花扇」
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INTERVIEW

旅館は日本文化の玉手箱。
日本の魅力を、誇りをもって世界に伝えたい。

第二十一回
株式会社強羅花扇 専務取締役
飯山雅樹

2019.07.22

株式会社強羅花扇は、箱根・強羅エリアに「強羅花扇」「早雲閣」「円かの杜」という3つの高級旅館を経営・運営している。3館とも実に味わい深い上質な旅館である。だからだろう、数多くのVIPや有名人、タレントなども利用を重ねる。そして、高単価でありながら大繁盛している。今回のスイッチブライトは、この強羅花扇を訪問。繁盛旅館に至るまでの話を伺った。

稼働率によってスタッフ数を決めるのではなく、
スタッフ数によって稼働を決める。

一般的なホテルや旅館は、お客さまの入り具合、つまり客室稼働率によってスタッフのシフトを作る。稼働が高い日はスタッフ数を増やし、低い日は少ない人数で業務にあたる。これがセオリーである。ところが、ここ強羅花扇は、まったく逆の考えでやっている。

まず支配人が、出勤できる仲居さんの数を把握してシフトを作成する。すると、仲居さんの数が多い日もあれば少ない日もでてきてしまう。それが分かってから来館いただくお客さまの数を決めるのだ。つまり、稼働率によってスタッフ数を決めるのではなく、出勤できるスタッフ数によって稼働を決める。よって、スタッフが少ない日は、どれだけお客さまが押し寄せようが、スタッフが無理なくハンドリングできる組数しか予約を受けない。

経営者としては、「儲けられるときに、その儲けを放棄する」ということになるから、苦渋の判断だと思うが、どうして強羅花扇では、このような決断をするのだろうか。まずは、ここから話を伺った。

「実は、そういう態勢にしたのは一昨年からです。箱根の噴火騒ぎの際、多くの仲居さんが去っていかれたことがあり、一気に人材不足になったタイミングです。お客さまが来るからといって仲居さんの休みを削ってまで働いてもらうと、無理が生じます。その無理が接客にも悪く影響しますし、離職にも繋がります。うちは仲居さん一人が3部屋を担当しますが、仲居さんがいなければ当然部屋が売れません。なにより仲居さんたちがかわいそうでした。売り上げもしっかり確保できていたので、こうした決断をすることができました」

経営者が売り上げや利益に貪欲になると、どうしてもスタッフに無理をさせてしまう。結果、スタッフは体を壊し、職場の雰囲気も澱み、人間関係も悪化する。そうなると、スタッフはお客さまにも自然な笑顔が出せなくなり、顧客満足度も低下する。スタッフの離職も増え、人が足りなくなって運営に支障をきたして売り上げを下げる。サービス業において、「売上・利益が欲しければ、まずはスタッフを幸せにさせること」というのは、そういう意味である。

「旅館業はブラック。こんなイメージがあると思いますが、私たちは、これを打ち消したいと思っています。誤魔化すこともせず、休みもしっかりとってもらい、給与もしっかり支払い、堂々と商売がしたいと思っているんです」

リーダー一人で、会社は変わる。

強羅花扇は、スタッフも接客を楽しんでいるし、そんな接客を受けているお客さまも、みな楽しそうである。思い合っている家族のような職場である。

しかし、2009年の開業から携わっている飯山専務によると、最初はこうではなかったという。支配人は自分勝手なシフトを作り、従業員食堂では会社の悪口がささやかれ、ギスギスした空気が流れていたという。それが、どのようなきっかけで好転したのだろうか。

「2011年3月に、私の実の姉が女将として、そして姉の夫である義理の兄が総支配人として強羅にやってきたことがきっかけです。当時、辞める決断をしていた竹島さん(現・強羅花扇支配人)と樋口さん(現・円かの杜 フロント係長)の仕事の力量を総支配人は見抜き、退職を思い留めさせました。『俺が、これからこの旅館を変えていくから、力を貸してくれないだろうか』と。そこから、この旅館は好転したと思います」

総支配人は、大手旅行代理店で勤務されたあと、旅館経営に携わってきた方で、観光業界の知識や人脈も豊富なベテラン経営者である。その総支配人が、竹島さんと樋口さんの二人を、旅館マネジャーとして本気で指導した。スタッフをしっかり見守る大切さ、人間関係の作り方、信頼できるパートナー企業との付き合い方など、自分が持っている知識やノウハウを余すことなく二人にインストールしていった。それだけではない、二人の待遇も厚くし、マイホームが買えるような制度も整備した。

二人の教育と同時進行で、フロントの機能を整備し、ウェブサイトやネットエージェントによるマーケティングツールも整えた。その後、仲居さんの教育と採用、板場の整備といった順番で健全な旅館経営ができる態勢を整えていったのだった。

世界から来た人に日本の魅力を伝える遣り甲斐

強羅花扇は、実は本店が飛騨高山にある。飛騨邸花扇。飯山専務は、生まれも育ちも飛騨高山であり、その地で宿を営む家に生まれ、小学生の頃は布団敷きなどを手伝っていたが、休みもとらないで働く両親を見て、「旅館なんて絶対に継ぐものか」と思っていた。モノ作りが好きだったので、大学は建築学科を選んだ。就職先もゼネコンだった。そこで、ビルの建築現場で現場監督の仕事を与えられ、仕事も楽しく収入も多く、豊かな生活を送っていた。

そんなある日、現場で指揮を執る飯山さんの頭上に、誤って鉄骨の角材が落ちてきた。瞬間的に避けたものの鉄骨は足を直撃、飯山さんは複雑開放骨折を負ってしまった。その後、9カ月ほどで完治はしたものの現場に戻ることはできなかった。会社は、飯山さんを営業職に回した。

「旅館に、戻ってこないか」、花扇の社長である実の父から声がかかったのはこんなタイミングのことだった。ちょうど、箱根で旅館を経営することが決まったタイミングであり、箱根を飯山さんに担当させるということだった。飯山さんは実父の指示に従った。

「小さいころ、あんなに嫌だった旅館の仕事が、いまはとても楽しいです。現場で頑張っているスタッフ、楽しそうにお客さんと談笑しているスタッフを見ているだけで、幸せを感じます。それに、正しい考え方で、正しい方向性を向いて、正しい方法で旅館経営をすれば、結果はしっかり伴ってくるということを義兄の総支配人のマネジメントを目の当たりにして感じています。それを私も体得したいんです」

そう言って飯山専務は楽しそうに笑う。

最後に、「旅館業の魅力を一言で言うとどうなりますか」と聞いてみた。

「いま、日本に来られる海外からの観光のお客さまが増えていますが、ポテンシャルはこんなもんじゃないと思っています。もっともっと増えるでしょう。海外の人がうちにご宿泊になると、みなさん大感激されます。こちらも、日本の魅力、伝統文化の奥深さを知ってもらい感激されると、非常に嬉しい。そんな時、旅館業をやっていることに誇りを感じるんです。料理、しつらえ、習慣、人の気遣い、細部にまで気を配る職人技など、旅館には日本文化のすべてが集約されています。これからも、それらを大事に、誇りをもって世界に伝えていきたいですね」

Information

株式会社強羅花扇

  • 住所:〒250-0408 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300-681
  • 電話番号:0460-87-7715
  • 客室数:64室(3館合わせて)
  • ウェブサイト:https://gorahanaougi.com/company.html

専務取締役
飯山雅樹氏 Masaki Iiyama
1980年 岐阜県高山市生まれ。日本大学生産工学部建築工学科卒業。
2003年4月 内野建設株式会社入社。主にマンション建設において4年間、現場監督を行ったあと、営業部で官公庁営業と民間営業を担当。家業の旅館が、箱根に進出す。
2008年4月 有限会社飛騨亭花扇入社 。7 月 株式会社強羅花扇に移籍、専務取締役に就任。現在に至る。

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Staff Interview

旅館を選んで本当に良かった!

強羅花扇 仲居 小池 由華さん
1995年 茨城県生まれ 2016年入社 ホスピタリティツーリズム専門学校ホテル科卒業

学生時代に旅館で実習し、とても自分に合っていると感じました。ほかの接客業よりもお客さまとの距離が近く、お話をたくさんできることに魅力がありました。

もともと田舎育ちで、住まいも日本家屋であったこともあり、和風建築や雰囲気が落ち着くし、単純に好きだったことも理由としてあるかもしれませんね。館内の床がすべて畳敷きだったり、懐石料理だったり、館内着は作務衣や浴衣であったり、ここでは日本文化を味わうことができます。

ホテルと旅館は同じ宿泊業でも、お客さまが求めていることが違うと思うのです。やはり利用目的の多くは余暇や記念日などですから、お客さまからの事前の期待値も高いように感じます。

入社当初は覚えることも多く、上手くいかないこともありましたが、たとえ辛いことがあっても、お客さまが笑顔でお帰りになる姿をみたら充実感を得られます。今は、やっぱり旅館を選んで良かったと思います。

旅館業に飛び込むのは壁が高いと感じる人もいるかもしれませんが、私を含めて普通の女の子が働いているんです。最初から何でも知っている、できる人なんていませんから、旅館で働くことも特別なことではないのではないでしょうか。どのような仕事でも様々な壁に当たることはあります。でも、お客さまのためにと思う気持ちがあれば、きっと乗り越えられるはずだと考えています。

Staff Interview

私にとって最高の仕事であり環境です。

早雲閣 フロント 星田 健太さん
1991年 神奈川県生まれ 2013年入社 国士舘大学政治経済学部卒業

私はまず自分の事よりも、相手の事を考えてしまうタイプなんです。だから、お客さまに安らぎを提供する場所である宿泊業を選んだことは自然な流れであったように思います。

やはり旅館業の醍醐味は、お客様の満足を直接感じることができること。「また来るよ、楽しかった」と言われることが遣り甲斐です。

大好きな旅館で、仲間と楽しみながら働くことができて、お給料まで貰える。私にとって最高の仕事であり環境です。 旅館の仕事は一人ではできません。だからこそ大変なことも少なくありません。特に人間関係は大変で、様々な部署と協力しながらオペレーションを行なうには、コミュニケーション能力は重要だと思います。お客さまの要望は様々ですから、現場の臨機応変な対応が求められます。だから人間関係を円滑にできるよう、業務以外でも、仲間とは普段からコミュニケーションを取るようにしています。

この会社には仲間への思い遣り、気遣いが出来る人多い。誰かだけに業務が偏らないように率先してサポートし合います。接客業にとって、目配り、気配り、心配りは基本ですが、お客さまだけではなく、仲間に対しても、広い視野を持ち気配りをすることが大切だと考えます。

旅館は職場としても利用者としても大好きな場所。ずっとこの仕事を続けたいと考えています。この会社は皆温かい。だから、そんな気持ちになったのかもしれませんね。尊敬している支配人が二人います。いまはその背中を追っていますが、ゆくゆくは追いつきたいですね。

Message

人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?

思考力

株式会社強羅花扇
専務取締役
飯山雅樹氏 Masaki Iiyama

Editor's Note編集後記

宿の佇まいに特別感がある… 強羅の泉質は申し分もない。 都会の喧騒を離れて、非日常を味わうには最高ではないだろうか。 何よりもスタッフのハートが素晴らしい。温もりある素敵な宿だなと感じました。
平賀健司

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