「錦水館」
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INTERVIEW

宮島に生まれ、宮島に抱かれ、
宮島の魅力を磨く。

第十三回
株式会社 錦水館 代表取締役社長 
武内恒則

2018.03.22

広島・宮島。そのシンボルである厳島神社は世界文化遺産にも登録され、急増している訪日外国人観光客の大人気のスポットになっている。特に、満潮時には大鳥居や社殿、廻廊などが海に浸かり、その光景は実に神秘的であり、この景色をSNSにアップしたい人が年間450万人にも押し寄せている。

今回取材した錦水館は、1912年創業、105年の歴史のある老舗旅館。現社長の武内恒則氏は5代目。宮島で生まれ、宮島で育ち、今では宮島を盛り上げる人気者になっている。
生まれ育った場所に愛され、場所に抱かれ、場所を愛し、場所の魅力を磨いて、その魅力を世界に発信している武内社長。今回は、そんな武内社長の生き方から観光や宿泊業の魅力を探ってみたい。

武内社長は生まれも育ちも宮島だと聞きました。

私はこの旅館の5代目です。錦水館は1912年の創業、今年で105年目になる老舗旅館です。幼い頃は、この旅館の中や宮島の山が遊び場でした。ふとん部屋に入ったり、宮島の山の中を歩いたりして・・・。東京で大学時代を過ごし、観光研究部に入って活動しました。冬はスキーバスを安くチャーターし、スキーツアーを企画して女子大に行ってチラシを配って人を集めてスキーに行き、夜はパーティをしたりしましたね。私のDNAなのか、人を喜ばせることや旅行が大好きだったんでしょうね、旅行代理店のような活動をしていました。大学卒業後は日本ホテルスクールの1年制コースでホテルを学び、その後、旅館を継ぐために宮島に戻りました。

以前の宮島は、修学旅行の学生がメインターゲットでした。しかし私は、本当の旅館やホテルをやりたいと思ったんです。東京から島に戻ったタイミング、1980年5月5日に「宮島ロイヤルホテル和風別館」をオープンしました。以来約40年になります。当時の社員は15名ぐらいでしたが、現在は社員数が80名、パートさんと合わせると多いときで120名ほどの規模になりました。

社長は社員の応援団長

私が戻った当初、社員の平均年齢は50歳を超えていましたが、今は31歳です。毎年新卒社員を採用していることもあり、お客さまから「旅館なのに若い人がたくさんいるね」という声を頂戴します。これからの旅館業は、経営者ばかりが頑張るのではなく、社員全員で頑張る体制が必要です。私の役割は、頑張る社員を応援することだと思い、社員教育をしっかりやろうと考えました。

また、当社では毎年経営計画書を作り、それを金融機関と社員全員に向けて発表会を開いています。そして、毎年の目標数字、会社の経営理念や戦略、年間スケジュールを共有しています。そんな取り組みをするようになってから、新しい旅館の形ができました。

さらに人事評価制度を入れたことにより、マネジャーや課長クラスが部下に対してコーチングやティーチングをしながら一緒に成長していこうという意識がつきました。「お客さまをおもてなしすることを深く考え行動する」を通して、社員も経営者も共に成長し、みんなで幸せになろうという良い関係性ができていると思っています。

武内社長が宮島にこだわっている理由はなんでしょうか。

錦水館は、ファミリービジネスではありますが、個人商店から会社組織、つまり家業から事業にしたいという思いがあり、その方向性で会社経営を進めています。それに、よく「市外でも事業をやりませんか?」という誘いもあります。それでも、私は宮島にこだわっているため、お断りしています。好きな宮島の中で商売を広げていきたい。企業というのは、社会に対して貢献することが存在意義ですが、私は「宮島」に貢献することこそ私どもの使命だと思っています。100年育ててくれた恩返しをしていきたいという想いがあり、経営理念も「宮島を愛し・・」という言葉を入れています。

お客さまだけでなく社員も宮島のファンであってほしいので、宮島検定という資格を社員に取ってもらっています。彼らは、宮島の魅力や興味深い歴史などを積極的にお客さまに伝えてくれています。

お客さまの喜びが自分の喜びに

新しい人材を採用する際に大切にしているポイントはなんでしょうか。

笑顔が素敵なこと、そして自分の考えをしっかり持っていることです。これを面接で見ています。また、「お客さまが喜ばれることが、自分の喜びになる」人ということがこの仕事では最も大事な要素のひとつでしょう。あとは「自分は、どうしたいのか、仕事を通して何がやりたいのか」という夢を語れる人は強いですね。

お客さまを笑顔にすると、そのお客さまの笑顔が自分を笑顔にしてくれます。そしてまた別のお客さまや同僚を笑顔にする・・・。こうした「笑顔の連鎖」を作れる人がこの仕事に向いています。うちは社内結婚が多いのですが、それはやはり、笑顔の連鎖の結果だと感じています。いつも社内には笑顔と笑い声が充満しています。みんなが仲良しです。そんな中では恋愛も多く生まれるんですね。

一番印象に残っているお客さまのエピソードを教えてください。

名旅館などではよくある話かもしれませんが、ご夫婦で何度も利用されるお客さまが、あるときご主人ひとりだけで来られたことがありました。聞くとやはり奥さんは亡くなられたとのこと。担当したスタッフはすぐにランチマットを持ってきて奥さまのための陰膳を作りグラスにワインをついで差し上げたところ、ご主人は目を潤ませて奥様のワイングラスに自分のグラスを合わせて乾杯された。このご主人はたいそう嬉しかったと、帰り際に担当スタッフに話してくれたそうです。

こうしたとっさの判断や、誕生日のお祝いに来られたお客さまのためにスタッフが歌を歌ったりするサービスは、目配り・気配り・心配りができるスタッフがいるからこそ。その中でも一番重要なのは、やはり心配りでしょうか。

最後に、旅館の仕事を諦めようかと考えている方にメッセージを。

旅館やホテルの仕事を辞めたいと考える原因はいろいろあると思いますが、私は引き止めません。そして、「またお客さまや仲間の笑顔が見たくなったら帰っていらっしゃい」と伝えています。人生をどう生きるかは自分の選択です。自分がどのような人生を歩みたいか、その中に宮島という土地の錦水館という場所で仕事をすることがその人の人生にどうかかわって来るのかはその人が考えることです。私は宮島でその場所を提供しているだけです。
実は当社もそうやって一度辞めてから「やはり錦水館が良い」といって戻って来る人はけっこういます。

旅館のあるじは、私の天職だと実感しています。生まれ変わっても宮島で旅館のおやじがやりたいですね。

Information

株式会社 錦水館

  • 錦水館
  • 住所:〒739-0558 広島県廿日市市宮島町1133
  • 電話番号:0829-44-2131
  • ウェブサイト:http://www.kinsuikan.jp/
  • 客室数:39室
  • 宮島別荘
  • 住所:〒739-0505 広島県廿日市市宮島町1165
  • 電話番号:0829-44-1180
  • 客室数:42室

株式会社 錦水館 代表取締役社長
武内 恒則氏(トニー武内) Tsunenori(Tony) Takeuchi
〈プロフィール〉1954年広島県宮島生まれ。四代目の長男として錦水館で誕生。76年私立学習院大学経済学部・経済学科卒業後、日本ホテルスクールに入学し旅館を継ぐため宮島へ帰郷。(有)錦水館入社。80年宮島ロイヤルホテル和風別館新築(現、宮島別荘)常務取締役就任。95年7月株式会社に組織変更、代表取締役社長就任。現在、嚴島神社総代、大願寺・大聖院・光明院の宮島寺院の各役員宮島観光協会理事。

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Staff Interview

後輩スタッフ達の成長する過程を目にした瞬間は、最高の喜びに感じます。

接客サービス 黒河 実由貴さん

私は学生時代、就職先として観光業全般、特に旅行業を考えていました。
観光業を目指した理由は、人を楽しませ、感動させられるような仕事をしたかったこと。また、英語を活かせる仕事に就きたいと強く考えていました。何よりも旅行が好きだということが一番の理由だったかもしれません。

錦水館入社当初は、宿泊業界の知識が無かったこともあり、不規則なシフトや、島での生活に慣れることに時間が掛かりました。接客の機会を得るようになってからは、徐々に楽しさを感じるようになっていきました。
お客様にとっての「特別な一日」に触れられることは、私にとっても特別なこと。人が喜んでいる姿が好きですし、楽しみであります。

これまで、辛いと思うこともありました。先輩社員から、厳しい注意を受けたことも多くありましたが、生来の負けず嫌いな性格もあり、いつか必ず追い抜いて見返したいと強く思いながら頑張ってきました。
今は後輩も出来て、私と同じような思いをさせたくないですし、後輩スタッフ達の成長する過程を目にすることは、私にとって最高の喜びです。

私は人見知りで、この仕事に就くまでは接客経験もなかったこともあり、この世界に飛び込むことに不安を感じたときもありました。ましてや島暮らしですからね。今は色々な方々に出会えることだけで楽しいと思いますし、何かあっても「神様が守ってくれるから、きっと大丈夫」と、楽観的に考えています。ここは宮島ですからね(笑)
これからは、さらに宮島をより深く知って、お客様に伝えていきたいと考えています。
また、他のホテルや旅館がどのようなサービスをしているのかを学び、効率化についても研究し、100年続いているこの錦水館を仲間と共に盛り上げていきたいです。

Staff Interview

この仕事に進めば出会いを通じて価値観が広がり、とても勉強になります。

接客サービス 熊本 光咲さん

私は大学在学時、博物館などで働く学芸員になる勉強を主にしていましたが、授業の一環で、観光業に関して調べたことを境に、次第に観光業か接客業に就きたいと考えるようになっていきました。

実は、宿泊業界に入るにあたって当初はとても大きな不安を抱えていました。怖い先輩や、変なお客様がいらっしゃったらどうしよう。そんなことばかり考えていました。
ただ、自分で挑戦すると決めたことだったので、思い切って飛び込んでみました。
実際に働いてみて感じるのは、お客様と出会える幸せ。お客様からの「ありがとう」という言葉。宮島には多くの訪日客が訪れますが、語学が堪能でない私の対応にも関わらず、錦水館での滞在や、私の接客に満足してくださる海外からのお客様。きっと想いが伝わったのだと思います。

日々の業務で上手くいかないこともありますし、お客様や同僚に迷惑を掛けてしまったこともありました。
私はいつも目の前のことばかりになってしまうので、今後はもう少し心に余裕を持って行動していきたいです。

もし、この業界に進むことを悩んでいる方がいれば、不安に感じることはありません。必ず環境には慣れます。何よりもこの仕事に進めば、多くの出会いを通じて価値観が広がり、とても勉強になります。

今後は外国からのお客様に対しても、日本のお客さまへの接遇と同じレベルが提供できるよう、語学力も向上させていきたいと思います。
また、宮島を深く知ることで、お客様の旅をより良い時間に出来るお手伝いをしていきたいですね。

Message

人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?

突破力

株式会社 錦水館
代表取締役社長
武内恒則氏 Tsunenori(Tony) Takeuchi

Editor's Note編集後記

何かあっても「宮島には神様がいるから、きっと守ってくれる」と明るく答えてくれた黒河さんも、自分自身が宮島を理解し深く知ることでお客様の旅の時間をより豊かにしたいと発信してくれた熊本さんにも武内社長の「観光に訪れるお客さまだけではなく、社員も宮島のファンであってほしい」という想いがしっかり伝わっていると感じました。

観光業に携わるということは、働いている土地の文化や歴史をしっかり理解することが大切だと再認識する取材でした。
原由利香

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