Editor's Note編集後記
印象に残った言葉は、「魅力を、数字を用いて説明する力」。
失敗から学んだという宮越支配人のその言葉には納得。仲間を巻き込むためにも必要なマネジメントスキルだと感じました。
そしてもう一つは、「個性を最大限活用する」
その人の価値を出すためには、その人なりの個性が大事。
自分の価値観を大切にし、相手の価値も理解する多様な価値観がホスピタリティ産業に大切…というのは、私も大好きな考え方でした。
(山本拓嗣)
INTERVIEW
お客さまの幸せな時間を、
自分たちがクリエイトする。
2018.04.24
スイッチブライトで取材させていただくホテルや旅館は、「社員を大切に思うことで繁盛ホテル、繁盛旅館の経営につなげているお宿」という選定基準にしている。こういう基準で考えるとなぜか小規模の旅館やホテルになりがちなのだが、今回は、36施設を運営する日本を代表するホテル・旅館運営企業、星野リゾートだ。筆者は、同社の社員を何人も知っているが、みな「会社LOVE」である。星野リゾートの社員であることに誇りを感じ、仕事を生き生きと行ない、楽しんでいる。果たしてその理由はなんなのか。スイッチブライト取材班は、今年一月、極寒の奥入瀬に飛んで同社が運営する奥入瀬渓流ホテルを取材し、星野リゾートの働く魅力を探った。
宮越総支配人は、そもそもなぜ星野リゾートで働くことになったのでしょうか。
私は、観光やサービス業に関わりたいと思って就職活動を行いました。星野リゾートは当時からかなり地域の魅力の発信や自然を楽しんでもらうエコツーリズムをうたっていて、そこに一番共感したんです。「星のや軽井沢」の前進の温泉旅館での勤務や、「リゾナーレ八ヶ岳」でのブライダルプランナーなどの仕事を経て、3年前に奥入瀬渓流ホテルにきました。
最初は、客室のマネジャーという肩書でした。星野リゾートは、昇進はすべて立候補制です。奥入瀬渓流ホテルに来て、半年後に全国の立候補選に総支配人として立候補し、このホテルの戦略や方針をプレゼンテーションして、選んでもらい総支配人になることができました。
星野リゾートで働く魅力 その一
「やりたいことは自分で決められる」
立候補制とは珍しいですね。
キャリアや自分のやりたいことを自分で決めていくというのがこの会社のスタイルです。人事スタッフからは、毎年異動希望も聞かれますし、全国にある星野リゾートのいろいろな施設からの公募が頻繁にかかるので、いろんな選択肢が用意されています。キャリアは個々のスタッフが自分で選んで作っていきます。会社はそれをサポートしていくというスタンスです。ただし、当然ながら必ずしも希望通りに選ばれるわけではなく、スキル不足で叶わないこともありますが、その際はアドバイスを頂けます。それに、星野リゾートには、「麓村塾」という社員なら誰でも学べる社内勉強会があります。マーケティングや論理的思考といったビジネススクール的なテーマだけではなく、チームビルディングやワインテイスティングなどもあり、たくさんの項目から学ぶことができます。向上心のある人には大変恵まれた企業だと実感しています。
宮越さんが最初に立候補したのは何歳のときですか。
30歳のときにUDに立候補しました。UDとはユニットディレクターのことで、一般的な企業でいうところの部長職です。現場を7〜8年勤務したので、そろそろマネジメントもやってみたいと考えました。星野リゾートは、一般的な企業と大きく価値観が違い、ずっとステップアップして上を目指さなくてもいいんです。よく「充電と発散」と言っていますが、プレイヤーとしてスキルやアイディアを充電・蓄えた後にUDとして発散し、その後「アイディアが尽きてきたのでまたプレイヤーに戻ります」というケースは日常的にあります。星野リゾートでは、人間関係は上下関係などではなく、役職は単なる役割なんです。
最初に立候補したときに何が足りなかったのですか。
マネジメントの基本的なスキルを何も習得しておらず、スタッフを管理することも、巻き込むこともできていませんでした。決定的に不足していたのは「魅力を、数字を用いて説明する力」でした。二回目は、それらを踏まえて再チャレンジし、選ばれることができました。そこではUDを3年ほどやり、その後ブライダルと調理のUDを各3年ほど行いました。調理の仕事は、包丁が持てなくても、そのレストランのコンセプトなどを理解しメニューを作り売上を伸ばすことを仕事としているので、細かい知識や技術がなくてもできます。
その後40歳のときに総支配人に立候補しました。その際は、この施設にお客さまを呼んでくるためのマーケティング手法や、青森にある星野リゾートの3施設、それぞれが目指すスタイルなどを実際のホテル運営にどう反映させていくかというプレゼンを行いました。青森の2施設の会場とTV会議で全国に繋がっている中でプレゼンを行ない、今回は一発で通りました。
実際にGM業をやられてどうですか。
今までは1つのチームを専門的に行なっていましたが、ホテル全体となると、やはりもっと広い視野を見てやらなければいけないのと、常に3〜5年後を考えていかなければいけないので、ステップはかなり上がったという印象を受けています。今後は、いろいろなブランドの施設で総支配人をやってみたいですね。
星野リゾートで働く魅力 その二
「自分たちで考え自分たちで実行できる」
大自然の中で働く魅力や大変さを教えてください。
ここに来られる方は東京や大阪など都市部の方がリラックス目的で来る方が多く、日々の忙しさから解放されようと来ているので、皆さんゆったりとした時間を楽しんでいらっしゃるので、その時間を私たちも一緒に立ち会えることが幸せだと感じています。幸せな時間をサポートし一緒に味わえることが幸せだと感じる一方で、その責任も大きいのですが、最終的にはお客さまから「本当にゆっくりできました。ありがとう」、「すごくよかったので、また秋に来てみたい」などと言っていただけることがあり、とても良い仕事だと思っています。ビジネスホテルとは少し違い、奥入瀬渓流で過ごすことを目的として来る方もいるので、その滞在とゆっくり過ごしていただけるようお手伝いをしています。
今はどのような感じで魅力作りをしていますか。
現場のスタッフが集まり「魅力会議」というのを行なっていて、日頃お客さまと接している現場から、どのようにしたらこの季節にお客さまに喜んでもらえるかなどをみんなでアイディアを出し合っています。マネジメントスタッフが決めてしまうと片寄った発想になってしまうので、なるべく多くのスタッフに参加してもらい、自由な発想で自分の意見を言ってもらうことによってスタッフのモチベーションにも繋がっています。
星野リゾートはいろいろ任せてもらえてチャレンジできる会社なので、実際に未知のことにチャレンジしていくことになるので、何かに対して積極的にチャレンジをし、何が足りなかったなどの振り返りがしっかりできる人がいいと考えます。
星野リゾートで働く魅力 その三
「なんでも意見が言い合える」
ほかにも星野リゾートの社風の魅力はあります。風通しが良いことです。上下関係がなく意見が言いあえるフラットな組織です。日々必要なときに集まり話し合い、意見が言いやすくその成果に向けてたくさん議論していけるので壁がなくスピーディーにできます。
観光産業や宿泊業を目指す学生に背中を押してあげる一言を教えてください。
あなたの個性を最大限活用してほしいですね。いろいろなキャリアがあって当然ですし、自分の個性を磨いていくほうが良いと思います。ただ、サービス業なので、基本的な身だしなみや笑顔、言葉遣いなどは必要だとは思います。しかし、それだけでは成果が限定的になってしまうので、その人の価値を出すためにはサービスパーソンとしての基本プラスアルファで、その人なりの考え方や個性が大事になってきます。
そうした個性を磨くために、海外に出るのもありだと思います。私も入社7年目に、一度休職をしてカナダに留学をしました。カナダのホテル学校に行き、海外生活で価値観の違いなどの多様性を学んだことが今でも生きています。英語や外国語などの語学が堪能だけではなく、今後日本には益々いろいろな国からお客さまが来ると思うので、そうした多様な価値観を理解したうえで会話ができることが有効になると考えます。多様性をしっかり理解して歩み寄りながら答えを合わせていけることが、これからのホスピタリティ産業には大切です。
Information
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル 総支配人
宮越俊輔氏 Shunsuke Miyakoshi
1974年新潟県上越市生まれ。97年神戸商科大学卒業後星野リゾートに入社。星野温泉ホテル(長野県軽井沢)、リゾナーレ八ヶ岳(山梨県北杜市)での勤務の後、奥入瀬渓流ホテル(青森県十和田市)に異動。レストラン、フロント、客室、ブライダル、ショップ運営などの現場を幅広く経験した後、3年前に奥入瀬渓流ホテル総支配人に就任。2017年12月には9年ぶりの冬季運営再開を実現し、東北の冬の観光需要を盛り上げようと日々奮闘している。
Staff Interview
仕事と趣味の両立が実現できる場所
アクティビティユニットディレクター 丹羽裕之さん
私は、もともと自然が好きなんです。大学在学中にカンボジアに海外留学をしたことがあったのですが、そこでの経験を通して、「自分は野外体験や自然の魅力を人に伝えること」が人生の中で一番おもしろいと感じていることに気付き「帰国後は野外教育をやろう」と決めました。
その後、地元の北海道に戻り、専門的なガイド養成機関に入り、アウトドアスキルやレスキューを学び、カヌーや自然のガイドの仕事を経験しました。その後、10年ほど前に青森に移住しました。青森で仕事をしているなかで、ビジネスパートナーであった星野リゾートと接点があり、奥入瀬渓流の魅力を多くの人に伝えるためにどんなことができるかを考えた結果、星野リゾートの一員になることにしました。
よく、「仕事と趣味は別」と言いますが、私は両立ができると思っています。休みの日などに、一人で森に入ることもしばしばあります。のんびり鳥を観察したり、写真を撮ったり、山に登ったりしています。「自分」対「自然」という関係で森を純粋に楽しみます。一方、仕事としてお客さまを連れて入る時は、お客さまと自然を繋ぐ役割です。そんなつながりを創ってお客さまが喜んでくれる瞬間は、とても幸せだと感じます。
奥入瀬渓流ホテルで働く魅力は、なんといってもここの自然の素晴らしさをお客様に伝えることに尽きます。来られるお客さまの9割以上が奥入瀬渓流を散策されますので、その魅力の道先案内人として、お客さまの知的好奇心をくすぐるような情報を伝え、さらに満足していただくことが、自分の満足になります。
局室にルーペを入れるアイデアは、私が発案したんです。苔を拡大して観ることでまったく違った美しさが現れる魅力を社内会議でプレゼンして、採用されました。現在では、各客室に置いています。
自然の雄大さで言うと、やはり海外のほうがスケールは大きいものの、ここは凝縮された繊細な自然がバランスよく構成されています。奥入瀬は、コンパクトな谷ですし、歩きやすい遊歩道もほかではなかなかないものですので、その質の良い自然にすぐに行けることが大きな魅力でしょう。
山や自然やアウトドア志向の方には、ここでの仕事は楽しくて仕方ないと思います。ホテル運営のスキルアップだけでなく、アクティビティも体験すれば、こんなに恵まれたところはないと思います。楽しみながら自身のキャリアを磨いていただける最良の場所だと思います。
Staff Interview
地域の魅力を世界に発信できる仕事です。
サービスチームスタッフ 豊田真野子さん
私は、観光業に興味があり、大学でも勉強していました。観光を促進することで人の役に立ちたいと・・・。ある時、私が通っていた弘前大学で、代表の星野と青森屋の総支配人の講演の機会がありました。その際、「日本の観光をやばくする」という言葉が印象的でこれは面白いって思ったのがきっかけで当社に入社しました。
入社する前は、ホテルのITシステムを使いこなせるかどうかという不安や、星野リゾートの特徴の一つである「マルチタスク」についていけるかが不安でしたが、慣れてしまえばまったく問題なく仕事ができています。マルチタスクとは、宿泊部門・料飲部門という縦割りの仕事分担ではなく、一人のスタッフが一日のなかで、フロントに立ったり、レストランで接客したり、客室清掃したりする仕事のやり方です。ですので、多い時にはユニフォームを3回着替えたりします。いろんな仕事を覚えられ、自分の幅を広げられるのが当社の魅力の一つですね。
また、良いアイデアであれば、現場スタッフからの発案でもどんどん実現していくところが、面白いところだと思います。私が考案したものとしては、苔に包まれ癒されるお部屋「苔ルーム」があります。苔のモフモフとした質感にこだわったインテリアや苔色のアメニティ、苔散策グッズを完備したお部屋です。一スタッフでも、ホテルの客室をプロデュースできてしまうんですね。
それに、なんといっても自然に囲まれた環境で仕事ができる幸せは常に感じています。客室清掃をしていて、ふっと窓の外を見ると清流と森が見え、マイナスイオンをたっぷり含んだ空気が客室に入ってきます。野生の動物が見えることもよくあるんです。その都度、癒されます。自然は、季節によっても、まったく雰囲気や色合いを変えてくれるので、それも魅力ですね。
青森に居ながらにして、世界中から来られるお客さまと出会え、交流できるのも、観光業に携わっている醍醐味の一つだと感じています。以前、シニアのご夫婦のお客さまがお越しになったことがありました。旦那様がご病気で、もうこれが最後の旅行かもしれないということでした。それを知った私たちはなるべくたくさんのお写真を撮って差し上げたくて、館内のいろんなスポットでお写真をお撮りしたところ最後にスタッフも一緒にということで写真を撮りました。数日後、そのご夫婦から旅行中の想い出をアルバムにして送ってくださいました。お客さまの人生の想い出の一ページに参加できるというのもとても光栄なことだと感じています。
ホテルは、フロント業務のイメージが先行してしまいますが、意外にもいろんな経験ができます。特に、当社星野リゾートのように全国や海外にもリゾートホテルや旅館を展開している会社ですと、いろんな土地で働くチャンスもあります。なにより、その土地の魅力を発信し、それによってお客さまに喜びや感動を与えられるという仕事は、自分たちも楽しみながらお客さまも幸せにできる素晴らしい仕事だと思っています。
Message
人生の先輩から若者に向けて
「仕事や人生を楽しむコツ」とは?
発信力
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル
総支配人
宮越俊輔氏 Shunsuke Miyakoshi
Editor's Note編集後記
印象に残った言葉は、「魅力を、数字を用いて説明する力」。
失敗から学んだという宮越支配人のその言葉には納得。仲間を巻き込むためにも必要なマネジメントスキルだと感じました。
そしてもう一つは、「個性を最大限活用する」
その人の価値を出すためには、その人なりの個性が大事。
自分の価値観を大切にし、相手の価値も理解する多様な価値観がホスピタリティ産業に大切…というのは、私も大好きな考え方でした。
(山本拓嗣)